「――っ!」
 
私の内側から込み上げてくる強大な魔力に気づいたのか、ザハラはこちらを振り返った。
 
地面にうずくまっていたはずの私は、ゆっくりと立ち上がる。視界を覆っていた熱と歪みは消え、代わりに鋭い感覚が全身を駆け巡った。

​私の髪は、燃えるような紅い瞳に映るほどに輝く銀色へと変わり、額には禍々しい魔力を宿した黒い紋章が浮かび上がっている。
 
「さっきは……良くもやってくれたわね!」
 
声は私自身のものなのに、どこか冷たく、高慢に響く。私は瞳を紅く輝かせ、一気にザハラとの距離を詰めた。
 
ザハラが驚きに目を見開くのも束の間、彼女の腹に一発、重い蹴りを打ち込む。

​「がはッ!」
 
尋常ではない衝撃に、ザハラの体が後ろの客席まで吹き飛んだ。その勢いで客席が半壊し、瓦礫の山がザハラの頭上へと降り注がれる。

​「ざ、ザハラ様!?」
 
しかし、ザハラはすぐに土煙の中から姿を現した。その姿を見た私は、冷たい笑みを浮かべる。

​「さすが竜人族。体は頑丈のようね」

​「……あなたは、ソフィアなのですか?」
 
ザハラは警戒しながら問いかける。その眼差しには、先ほどの余裕は微塵もなかった。

​「ええ、そうよ。あなたが本当に求めていた、魔人族ってやつよ!」
 
私は背中から、闇そのものを切り取ったかのような巨大な黒い翼を生やすと、ニヤリと笑みを浮かべた。

翼が空気を切り裂く音とともに、私はザハラ目掛けて飛んでいく。

​右手に数多の黒い球(ダークボール)作り出し、それをザハラ目掛けて放つ。

黒い魔力の塊は、まるで意志を持っているかのようにザハラへと殺到した。

​ザハラはそれに対し、口から淡い炎の咆哮を放って迎え撃つ。

二人の巨大な魔力が激突し、辺り一帯を震わせるほどの爆発が起こった。

​閃光と爆音の中、私たちの姿は光の中に消えていく。

​「ザハラ様!!」
 
遠くから、ヨルンの焦った叫び声が響いた。