「……悪いけど、私は竜人族の悲願とか、そんなものには興味がないの。だから、私はあなたとは戦わない」
 
今は一刻も早く、アレスたちを助けに行かないと!

​「……そう言うと思っていました。なので、こちらであなたが戦わざるを得ない状況を作りました」

​ザハラが指を鳴らした瞬間、何かのカラクリのスイッチが入る。

闘技場の下から上がってきたのは、木の板に磔にされたアレス、カレン、ロキの姿だった。

​「アレス……カレン……ロキ!」

​意識のない三人を見て、私の心に黒い感情が芽生え始めた。

​「この方々を殺されたくなければ、私と戦ってください」

​「どうしてそこまで、私と戦うことにこだわるの!」

​「先ほど申し上げたはずです。これは我々の悲願のために必要なことなのです」

​私は目に涙を浮かべ、三人との記憶を脳裏に過らせ覚悟を決めた。

​「分かった……あなたと戦う」
 
ザハラも背中の鞘から剣を抜き、翼を広げた。

​「一発で決めてみせる!」
 
私は空に向かって手をかざす。みんなを守るために、私は魔法を使うよ!

​「夜空に浮かぶあまねく星々よ、その輝きを一つの力と変え、数多の流星を降らせよ!流星の雨(メテオレイン)!」
 
降り注ぐ流星を、ザハラは剣の一振りで全て粉砕した。

​「そ、そんな!」

​「少し……がっかりです」

​「くっ!」
 
魔力を半分もっていかれ、視界が歪む。でも、こんなところで倒れるわけにはいかない!

​「氷の精霊よ、大気の精霊よ、その力を集結させ、目の前の者の体を穿て! 氷の槍(グラースランス)!」
 
数多の氷の槍がザハラに向かって飛んでいくが、彼女は咆哮だけで全て溶かしてしまった。

​「はあ……はあ……」

​「……これが、長年待ち続けていた魔人族だと言うのですか。でしたら、今度は私から行かせてもらいます」
 
ザハラは大きくジャンプすると、再び剣を抜き、私めがけて振り下ろす。

とっさに反射(リフレクション)を発動するが、その一撃は重く、私の体を守っていた魔法は粉々に砕け散った。

​「っ!」
 
体を蹴り飛ばされ、私は壁に叩きつけられる。全身に激痛が走り、その場にうずくまった。

​「……もう、終わりですね」
 
ザハラは私の側まで飛んでくると、私の頭をわし掴みにする。

​「どうやらあなたは、私たちが探していた魔人族ではなかったようですね」

​私の意識は飛びかけていた。

体も熱くなって、どんどん息が荒くなる。私の中にある存在が、表に出ようと、もがいている。

私は必死に抵抗した。

​「ヨルン。その者たちを殺しなさい」

​その言葉を聞いた瞬間、私の体が大きく脈打った。

​「い、良いのですか?」

​「構いません。その者たちは用済みです。この島を知られた以上、生かしておくわけにはいきません」

​「わ、分かりました……」
 
私は震える体に力を込め、ザハラの腕を掴んだ。