「あなたはずっとそれを隠してきたのね。気を張って強がることで」

​「……どうして、そこまでのことがわかるんですか?」

​「さあね。でも、あなたはソフィアに少し似ているわ。気を張って強がることで、自分の周りに壁を作り、誰にも助けを求めようとしない。あなたもそうだったんじゃない?」

​テトに再び図星を突かれ、カレンは目を細めると、そっと顔を背けた。

​「でも、サファイアの傷が癒えていない中で、私たちのために来てくれた。そのことには感謝しているわ」

​そう言ってテトはカレンに微笑みかける。

その優しい笑顔を見て、カレンは再びわずかに口元を緩めた。しかし、すぐにその表情は暗く沈んでしまう。

(なぜ……ヨルンはサファイアの魔力が込められた刀身を素手で掴めたのかしら? あの時、魔剣から自身の魔力が吸い取られるような、不思議な感覚に襲われた。まるで……氷を溶かす何かを持っていたかのように)

​「アレス。ソフィアの発作を抑える薬は、あなたが持っているわよね?」

​「あ、あぁ」

​「もしかしたら、今回のことで、魔人ソフィアが表に出てくるかもしれない」

​「っ!」

​テトの言葉に、俺たちは息をのんだ。

まさか、またあの存在が出てくるのか。そうなれば、あいつは竜人族を皆殺しにするんじゃないのか?!

​「それに……もっと最悪なことが起きるかもしれない」

​「もっと最悪なこと?」

​テトは目を細め、確信に満ちた口調で俺たちに告げた。

​「今回のことで魔人ソフィアは、表のソフィアの存在を消しにかかるかもしれない」

​「なっ!」

​表のソフィアの存在を消しにかかる……。

それじゃあ、俺たちの知っているソフィアが、この世から消えるってことなのか?!

​「もともとソフィアの体は、魔人ソフィアのものよ。何らかの原因で、一つの意識が二つに分裂してしまった」

​「一つの意識が二つに……そんなこと、本当に起こるのか?」

​ムニンが信じられないといった顔で尋ねる。テトは静かに頷いた。

​「ええ。私たちの世界には、まだ解明されていない魔法の現象がたくさんあるわ。ソフィアに何が起きたのか、私にも正確にはわからないけど、可能性としては十分あり得る」

​「ソフィアと魔人ソフィアは、表裏一体の存在。なら、一つの意識に戻る方法だってある」

​「まさか、魔人ソフィアは、その方法を知っているってのかよ?」

​ムニンの問いに、テトは再び静かに頷き、目の前の鉄格子を睨みつけた。