​「残念だけど、今回は私でもお手上げよ。もし魔剣サファイアがあれば、ここから出るチャンスはあったかもしれないけど」

​テトはそう言いながら、カレンに視線を送った。カレンは牢屋の隅で膝を抱え、小さくうずくまっている。

その顔は、まるで心を閉ざしてしまったかのようだった。

​「ねえ、カレン。ずっと気になっていたことがあるんだけど」

​その声に、カレンは伏せていた顔を上げた。

前髪の間から細められた彼女の瞳は、どこか遠くを見ているようで、

その奥には深い悲しみが宿っているように見えた。俺は思わず肩をすくめる。

だが、テトはそんなことを気にもせず、核心に迫る問いを投げかけた。

​「もしかして、魔剣サファイアは、本来の魔力を取り戻していないんじゃないかしら?」

​「っ!」

​カレンの体がびくりと震えた。その反応に、俺は思わず声を上げる。

​「えっ……?」

​サファイアが、本来の魔力を取り戻していない? どういうことだ?

​「どうして、そう思うんだ?」

​「一つはあの戦いよ。世界の魔法を巡る戦いで、あなたは魔人化したソフィアと激しい戦いを繰り広げた。普通なら魔剣一本あれば、魔人化したソフィアと互角に戦える。最悪、殺すことだってできる。でも、あなたはソフィアに負けた」

​テトの言葉に、カレンは再び顔を伏せ、両手で耳を覆った。

​「……っ」

​「それはなぜかしら? それに、あの戦いでサファイアにはヒビが入ってしまった。特別な力を宿したと言われる魔剣が、どうしてそんなに簡単にヒビなんて入るのかしら?」

​テトに次々と図星を突かれ、カレンの震えは止まらない。まるで何かに怯えているかのように、その体は小刻みに震え続けていた。

​「おい、テト! それ以上は――」

​「あなたは黙ってなさい」

​テトから発せられた、聞いたことのない低い声に、俺は何も言えなくなってしまった。

​「さあ、答えてちょうだい。あなたは本当に『氷の女神の加護を受けし少女』なのかしら?」

​カレンは震える声で、ゆっくりと顔を上げた。その瞳には、諦めと絶望が入り混じっていた。

​「……そうよ。私は、サファイアの主じゃない(・・・・・・・・・・・)

​「なっ!」

​そんな……嘘だろ?!

​だが、カレンは確かに、サファイアの力を使いこなしていたはずだ。

それなのに……。