​☆ ☆ ☆

「くそっ!」

​俺は目の前にある鉄格子を思いきり拳で叩きつけた。

​「落ち着きなさい、アレス!」

​「これが……落ち着いていられるか!」

​俺たちはヨルンたちによって、闘技場の地下にある牢屋に放り込まれた。

ロキはヨルンの攻撃を受けて気を失ったままだし、魔剣サファイアまで奪われてしまった。

これではソフィアを助けに行くことができない!

​「竜人族たちの知識の発展は、実に素晴らしいわね。この牢屋の中にも、魔法が使えないように高度な術式が施されている」

​「その前にこの手枷じゃ、魔法を使うどころじゃないだろ」

​ムニンやテトも、俺と同じ手枷を両手両足にはめられている。

これじゃまるで、囚人と同じ扱いだ。

​「この手枷は、ただの重りじゃないわ」

​テトは俺の肩に乗ると、手枷の中心に埋め込まれた結晶を指差して説明を始めた。

​「この結晶は、私たちの体内にある(ロゼ)から、魔力を引き出す経路を完全に断ち切るようにできている。だから、魔法を使おうとしても、魔力そのものが体中に回ってこない」

​「しかも、この牢屋も一筋縄じゃいかない。壁や天井には魔力を通さない石が使われている上に、それを補強するように術式が何重にも重ねられている」

​ムニンが牢屋の壁に触れながら、苦々しい表情で付け加える。

​「この術式は、外部からの魔力だけでなく、俺たち自身の雫からの魔力供給を妨げる手枷の効力を、さらに強固なものにしているんだ。完全に魔法対策がされている」

​俺は改めて手枷の結晶と、牢屋の壁を見つめた。

これでは、本当に八方塞がりじゃないか。

​ロキは気絶したまま床に転がっているし、カレンは魔剣サファイアを取り上げられて以来、牢屋の隅で膝を抱えて小さくうずくまっている。

​「早くここから出る方法を探さないと!」

​「それは無理ね」

​「なっ! 何を言うんだテト!」

​テトは俺の頬をべしべしと叩いてくる。

​「魔法が使えない以上、この牢屋から出るのは不可能に近いわ。それに、たとえ魔法が使えたとしても、この牢屋に施された術式を解かない限り、魔法も使えないんだけど」

​「じゃあ! ここで待っていろっていうのか!」

​「そうね」

​テトのその言葉に、俺は目を丸くした。