​「ただ今戻りました、ヨルン。準備を初めてください」

「承知いたしました!」

ヨルンと呼ばれた人物は、私たちを通り過ぎるなり、まるで風のように慌ただしく家から飛び出していった。

その足は、何か探し物でもしているかのように慌ただしく、大きな音を立てていた。

私たちは驚いて、ただ彼が出て行った方を見つめることしかできなかった。

​ザハラに促され、私たちはそれぞれ椅子に腰かける。

​「それでは、今回の依頼について詳しくお話しいたします」

​「ああ、頼む」

​ザハラは静かに視線を落とし、悲しげな表情で語り始めた。

「先程も申し上げた通り、あなた方にはある竜を探していただきたいのです。この島の守り神――白竜エーデルを」

​「その竜とは?」

白竜​エーデル──

その名を聞いた瞬間、頭の奥がちくりと痛むような感覚を覚えた。

​「エーデルはひと月前、このラスールの地から姿を消してしまいました。理由は未だわかっておりません。ただ、ひと月前に感じられた、この世のものとは思えぬほど禍々しい魔力――その直後のことでございました」

​彼女の言葉に、私たちははっと息をのんだ。

その禍々しい魔力の正体が、きっと「世界の魔法(ヴェルト・マギーア)」だと知っていたからだ。

​もしかして、エーデルはその魔力を感じて身を隠したのだろうか?

いや、あの魔法とエーデルに関係があるはずがない。

だとすれば、他に何か理由が……?

​「わたくしたちの方でも、心当たりのある場所は全て探し尽くしました。しかし、それでも見つけられなかったのです。ゆえに、もしかしたらエーデルはあなた方がお住まいの、本土のどこかにいらっしゃるのではないかと思い、こうしてご依頼申し上げた次第でございます」

​ザハラの言葉に、アレスは深く考え始めた。