​『そう言うことではない。お前が動くには少し早いと思っているだけだ』

​「……なるほどな」

​頭の中に響く声に、俺は静かに頷いた。そうは言っているが、本当に昔から心配性な奴だ。

​「悪いが、俺だって体が鈍っているんだ。少しくらい動いた方が今後のためだろう?」

​『しかし、もしものことがあれば……』

​『行かせても良いではありませんか』

​今度はまるで穏やかな風が吹くように、女性の声が頭の中に響いた。

​『私も少し気になっています。彼女の力がどういうものなのか』

​『おい、お前まで……』

​「じゃあ、決まりだな」

​俺は二人の声を一蹴し、空中魔法を使いラスールに向かって飛び始めた。

俺の決断に、彼らの意見は関係ない。これは、俺自身が決めた道だ。

​「そうだ。カレンがいるってことは、サファイアも一緒なんだろう? 久しぶりに会うことになるし、ちょっと話をしようと思うんだ」

​『……今後についてか?』

​頭の中の声が、俺の言葉の真意を問う。

その鋭さに、俺はニヤリと笑みを浮かべた。

​「ああ、今後のためにな」

​彼らの知らないところで、俺の計画はすでに進行しているんだ。

その為に必要なピースがようやく揃ったんだ。

​「それに……」

​ふと、嫌な魔力をあの島から感じる。

この森からも同じ気配は感じていたが、ラスールからはこの森よりも遥かに強い、濃密な闇の魔力を感じる。

​ラスールの人々には世話になった。

平和を望む彼らが、闇の魔力に侵食されているとすれば、何とかしてやりたいと思うが……。

​「ま、何とかなるか」

​そう呟き、俺は緑色の瞳にラスールを映した。

その瞳の奥には、冷徹な決意と、わずかな感傷が混じり合っていた。