​「ソフィアがそう言うなら……良いけど」

​テトは目を細め、警戒するようにザハラの背中を睨みつけた。

そんなテトを見ていたアレスは、私の側に来ると、そっと手を握ってきた。

​「アレス?」

​「大丈夫だ、ソフィア。お前には俺たちがいるんだ。いざとなったら、俺たちが必ずお前を守るから」

​「……うん」

​私は小さく頷き、アレスの温かい手を握り返した。

​竜の血を引くと言われる竜人族。

その力は、私たちが想像するよりもずっと強大なのだろう。

もし、そんな相手とアレスたちが戦うことになったら……。

私はまた、ただ守られるだけなの? その問いが、胸の中で小さく渦巻いた。

​私たちは、ザハラに導かれ、さらに森の奥へと進んでいく。

道は苔むした岩や、空中に根を張る巨木の間を縫うように続いていた。

足元からは、虹色の光を放つキノコが生え、踏みしめるたびに微かな音を立てる。

頭上には、地上の森とは比べ物にならないほど巨大な葉が広がり、光を遮っていた。

その葉の隙間から差し込む光の筋が、幻想的な模様を地面に描き出している。

​遠くから、地上では聞いたこともないような生き物の鳴き声が聞こえてきた。

それは、まるで歌を歌っているかのように美しく、しかし同時にどこか寂しげな響きを持っていた。

時折、空を悠然と舞う竜の影が見えたが、その姿はどこか疲弊しているように見えた。

​「ここが竜人族の村です。エルドラと申します」

​ザハラに案内され、たどり着いた村の入り口で私たちは立ち尽くした。

​村はたくさんの竜人族で賑わっていた。

中央には美しい噴水があり、その周りでは子供の竜人族が楽しげに笑い声を上げている。

道沿いには、手作りの品を並べた店が軒を連ね、活気に満ちていた。

​私たちは思わず目を瞬かせた。

魔法書には、竜人族は魔人族と人間族の戦争後に姿を消し、滅びた種族とも言われていると書かれていたはずだ。

まさか、この空に浮かぶ島で、何百年もひっそりと暮らしていたなんて。

​「私たちはもうずっとここで、何百年と暮らしてきています。エアに与えられた領土を捨て、自らの意思と力で生きるために」

​「竜もここにいるんだろ?」

​アレスの言葉に、ザハラは暗い表情を浮かべ視線を落とした。

​「ええ、いました。一ヶ月前までは」

​「一ヶ月前……?」

​一ヶ月前と言うと、ちょうど世界の魔法(ヴェルト・マギーア)の事件が起きた月だ。

この島にいたはずの竜も、その時期に行方不明になっている。

これは偶然なのだろうか? それとも……。

​「それでは私の家へ参りましょう。付き人が、お茶を用意して待っていますので」

​ザハラはそう言うと、村の中へと足を踏み入れた。

彼女の姿を見た村人たちが、すぐにその周りに集まり始めた。