「あの、あなたの名前は?」

​私の声に気づいたザハラは、軽くこちらを振り返って言った。

​「私はザハラと申します。竜人族の巫女です」

​「み、巫女……?」

​「詳しいお話はあちらでしましょう」

​ザハラの言葉に促されるように、前方に小さな島が見えてきた。

しかし、近づくにつれてその島はどんどん大きくなっていく。そして気づいた。

海にぽつんと浮かんでいると思っていたそれは、なんと空中に静止していたのだ。

​「これが、竜人族と竜が共に過ごす島――浮遊島ラスールです」

​私たちは彼女に導かれ、崖の先端に降り立った。ザハラもまた、地面に足を下ろす。

​島のあちこちに目を向けていたアレスは、どこか警戒しながらザハラに問いかけた。

​「俺たちをこんなところまで連れて来て、本当にいいのか?」

​「本来の予定では、あなた方二人だけだったのですが……」

​ザハラはカレンとロキに視線を送り、二人の全身を値踏みするように見下ろした。

そして、軽く息を吐くと。

​「よしとしましょう」

​そう言って森の方へと歩き始める。

​「着いてきてください。村まで案内します」

​ザハラの言葉に、私たちは顔を見合わせ、その後に続いた。

​私の肩に乗っているテトが、

そっと耳打ちしてくる。

「本当にいいのかしら? 罠の可能性もあるのよ?」

​テトの言う通りだ。この先に何か罠が仕掛けられているのかもしれない。

​でも……。

​「きっと、大丈夫だよ」

​そう口にすると、テトは驚いて目を丸くした。

​自分でも不思議だった。

根拠など何もないのに、ただ「ザハラは悪い人じゃない」と直感的に思ったからだ。

その感覚は、まるで昔から彼女を知っているかのように、私の中で確信に変わっていた。