​「な、なんだ?」

​舞い上がる土煙の中から、太陽に照らされた深紅の髪が見えた。

アレスと共に立ち上がった私は、目の前の人物に釘付けになる。

​「お前は……いったい」

​土煙が晴れ、その姿が完全に露わになった。

彼女は肌の露出が少ないものの、体の線に沿うように作られた、新緑を思わせる柔らかな緑色の衣を纏っている。

その生地には、光の当たり方で色を変える不思議な刺繍が施され、まるで竜の鱗を糸にしたかのようだ。

首元には、獣の骨を模したようなネックレスが揺れていた。

​背中には竜の翼、腕と足は竜の鱗に覆われ、鋭い爪が生えている。

その人物は、私の姿を見つけると、細められたピンク色の瞳を私に向けた。

​「その姿……お前は竜人族か!」

​アレスの問いに、彼女は静かに頷いた。

​「よくお分かりになりましたね」

​「そんなのお前の姿を見れば、すぐに分かることだ」

​カレンとロキもまた、彼女に対して警戒態勢を解かない。

二人の視線を横目で感じた彼女は、すぐに私へと視線を戻した。

​「では、参りましょう」

​「どこにだ?」

​アレスが彼女に問う。

​「手紙に記したではありませんか。あなた方に探してほしい存在がいると」

​「それは、竜人族の誰かなのか?」

​アレスの言葉に、彼女はゆっくりと首を横に振った。

​「あなたたちに探してほしいのは、竜そのものです」

​「なっ!」

​彼女の口から出た「竜」という言葉に、その場にいた全員が目を見開いた。

​「私は一言も「人」だと記した覚えはありません」

​たしかに、手紙には「探してほしい人物」と書かれていた。

私たちは当然、人間か、少なくとも人型種族を探すものだと思っていた。

だけどまさか、探すべき相手が「竜」だなんて!

​彼女は私たちに手をかざし、その身を神の守りで包み込んだ。

そして、彼女が腕を軽く上げると、私たちもまた、神の守りごと宙に浮き上がった。

​「では、参りましょう」

​彼女の足元に白い階段のようなものが現れると、私たちはその上を歩くように前に進んでいく。

​「おいおい、マジかよ!」

​ロキが唖然とした声を上げる。

​「こんなことが……可能なの?」

​カレンもまた、信じられないといった表情だ。

空中魔法を使わずに空を飛ぶ。

ありえない光景に、私は彼女を見つめ問いかけようとした。