​☆ ☆ ☆

「ねえ、どう思うかしら?」
 
ソフィアの肩から飛び移ってきたテトが、俺の肩にそっと着地した。

その小さな重みを横目で感じながら、俺は前を歩くベルの背中を見つめる。

​「どうやらあのベルって子は、ソフィアを魔人族だと認識したみたいね」

​テトの言葉に、アレスは静かに頷いた。

「ああ、そうみたいだ」

​ベルはソフィアの名を聞いただけで、その容姿を確認した。

まるで、以前にも魔人族を見たことがあるかのように。

長い寿命を持つ森人族が、過去に魔人族と出会っていても不思議ではない。

だが、彼女が呟いた「もうその時期」という言葉が、俺の心に深く引っかかっていた。

それは一体何を意味するのか?

​「着いてこい」

​突然の短い言葉に、俺たちはベルに視線を戻す。

​「お前たちを六月の岬へと通す」

​「なっ……!?」
 
ベルはそれだけ告げると、返事を待つこともなく、再び歩き出した。

その不審な行動に、俺は眉をひそめて彼女の背中を見つめる。

​「アレス。どうするの?」

​カレンは鞘に収めたサファイアを握りしめながら、ベルに聞こえないよう小声で囁いた。

彼女の視線もまた、ベルの背中に注がれている。

​「あのベル、ソフィアの正体が分かったんじゃないかしら」

​「ちょうどテトと、その話をしていたところだ」

​アレスは静かに答える。

「だったら、警戒するに越したことはないわ」

​カレンの言葉に、俺は同意するしかなかった。

もし手紙をくれた人物が、ソフィアが魔人族の生き残りであることを知っているのだとしたら?

そんな相手にソフィアを会わせて本当に大丈夫なのか?

​いや、待て。

もしソフィアの力を狙っているのなら、こんな手紙を寄越すはずがない。

力ずくで奪いにくるのが筋だろう。

​様々な思考が頭の中を駆け巡る。

疑問は尽きない。

​しかし、今はベルに着いていくしかない。

真実をこの目で確かめるために、俺はは覚悟を決め、一歩を踏み出した。