​「さっきの戦いは遠目ながら見させてもらった。人間族にしては、なかなか強い魔力を持った者たちだと思ったが」

​ベルは歩みを止め、振り返ってアレスの後ろにいる私を指差した。その瞳は冷たく、感情の読めない光を宿している。

​「なぜ、お前は守られていた?」

​鋭く細められた橙色の瞳が、私を射抜くように見つめる。その威圧感に、私は思わず息をのんで数歩後ろに下がった。

​だが、すぐにアレスが私を庇うように前に立った。

​「ソフィアの中にある雫が、今不安定な状態なんだ。だから俺が、魔法を使わせないようにしている」

​アレスの言葉に、ベルは興味深そうに目を細める。

​「……ソフィア?」

​私の名を聞いたベルは、一瞬だけ目を瞬かせると、腕を下ろして私をじっと見つめてくる。

彼女の視線は、まるで私の奥底まで見通そうとしているかのようだ。

​「翡翠色の髪、薄緑の瞳……お前はまさか」

​その言葉は、驚きよりも確認するような響きを帯びていた。私は首を傾げる。

しかし、すぐにサルワに言われた言葉が脳裏に蘇った。

​魔人族の血を引く者――

​ベルは何かをぶつぶつと呟きながら、考えに沈んでいく。

​「まさか……いや、もうその時期なのか」

​その言葉を聞きながら、アレスは私にそっと顔を近づけ、小声で囁いた。

​「大丈夫か? ソフィア」

​「う、ううん、大丈夫だよ。でも……」

​私は言葉に詰まる。

胸の奥で、心臓の鼓動が異常な速さで脈打っている。

ベルの視線が、私の最も触れられたくない部分を暴こうとしているような気がした。

​「嫌なこと、実感させられそうで…それがすごく怖い」

​私の声は震えていた。

アレスは何も言わず、ただ私の肩にそっと手を置く。

その温かさが、私の心を少しだけ落ち着かせてくれた。

​しかし、震えは止まらない。

私はこの震えがアレスに気づかれないように、そっと彼から距離を取った。

もしこの感情が彼に伝わってしまったら、どうなるだろう。

そんな不安が頭をよぎった。