「あの小娘には悪いが、両親を殺した奴の話を聞いたところで、ろくなことにはならねえ。返ってくる言葉は、最も残酷なものだ。話を聞いたところで、後悔するだけだろうよ」

​ブラウドの言葉には、過去に同じような苦しみを味わった者のような、冷たい諦念がにじんでいた。

それはただの忠告ではなく、深く傷ついた者の慟哭のように響く。

​「……確かに、後悔するだけかもしれない。聞かなければよかったと、心から思うかもしれない。でも…」

​ムニンはブラウドから視線をそらすことなく、静かに言葉を紡ぐ。

​「真実を知ることも、時には大切なんじゃないかと思う。僕は、彼女の話を聞いてそう思っただけなんだ」

​「真実だと? 人を殺すことに、大層な真実なんてものはない。あるのは殺す側と殺される側の理屈だけだ。俺は両方の理屈を嫌というほど聞いてきた」

​ブラウドはそう言いながら、鋭く目を細める。

​「それで、どうだったんだ?」

​ムニンの問いかけに、ブラウドは一瞬顔を歪めた。

​「……どうもしねえよ。殺す側の理屈に納得したところで、殺された奴が戻ってくるわけじゃねえ。それどころか、復讐の理由を一つ失って、自分が何のために生きてきたのか分からなくなるだけだ」

​「それでも、知ることに意味がある。復讐という檻から抜け出すためには、まず敵を知らなければ」

​ムニンの言葉に、ブラウドは鼻で笑った。

​「くだらねえ。そんなものはただの言い訳だ。そのガキはただ、殺されるのが怖かっただけだろう」

​「……違う」

​ムニンははっきりと否定した。

​「彼女は怯えてはいなかった。ただ、答えが知りたかっただけだ」

​「答えを知って、どうなる? どうせ最後は、剣を向けるか、泣き崩れるかの二択だろう」

​「そのどちらでもないかもしれない。彼女には、その先がある。彼女は、それを知るために動いたんだ」

​次の瞬間、ブラウドが振り下ろそうとした剣の刀身を、ムニンは素手で掴んだ。

鋼と皮膚が擦れる不快な音が、凍り付いた空気の中に響く。

​「っ!」

​ブラウドは驚きに目を見開いた。

ムニンの右手からは、鮮血がポタポタと手首を伝い、地面へと滴り落ちていく。

その光景は、ムニンの言葉の重さを物語っていた。

​「怒りや憎悪に身を任せても、何も見えやしない。復讐に取り憑かれれば、一生そこから抜け出すことはできない。もし抜け出す術があるとするなら、心から憎んでいる相手と、同じ行動をした時だろう。そして初めて、自分は知るんだ…人を殺したときに、抱いてしまう感情を!」

​ムニンの声は激情を帯び、彼の痛みを剥き出しにする。

私たちはただ、その言葉に目を丸くするしかなかった。

しかし、その一部始終を間近で見ていたブラウドは、血の滴る剣を掴んだままのムニンを見て、自嘲するように笑う。

​「イカれてやがるな……お前は」

​「そうだね。僕は生まれた時からイカれているのさ。この瞳を持って生まれた以上はね」

​ムニンの深紅の瞳が、血で濡れた手とともに妖しく光を放つ。

その言葉で、私はあることを思い出した。

古い魔法書に書かれていた、狼人族に関する一節だ。

​「狼人族はみな、深紅の瞳を持っている」

と──