​「ムニン!」

​「ああ!」

​狼人族へと姿を変えたムニンは、右腕を鋭い爪を持つ刃へと変形させ、私たちの前に立ちはだかった。

​「破壊の精霊よ、我が力に宿れ。破壊の牙(ブレイファング)!」

​ムニンが放った衝撃波によって、襲いかかってきた兎人族たちは次々と地面に倒れていく。

しかし、それでも次から次へと、兎人族たちは私たちに向かってきた。

​「アレス! まだまだ来るぞ!」

​「分かってるさ!」

​アレスは私の背後に立ち、しっかりと庇うと、目の前に右手をかざす。

​「天空の精霊よ、我が導きに従え。流星(ミーティア)!」

​無数の光の粒が空から降り注ぎ、兎人族たちに直撃する。その圧倒的な光景を目の当たりにした敵は、一瞬動きを止めた。

​その隙にアレスは私の手を引き、私たちはカレンたちと合流する。

​「これじゃあキリがない」

​あれほどの兎人族を倒したというのに、数が減っているようには見えなかった。

このままでは、ただ無駄に魔力を消費するだけになってしまう。

​すると、ムニンは右手の変形を解き、一人の兎人族の前へと歩いていく。

​「ちょ、ムニン!?」

​「あいつ、何をする気だ?」

​私たちもアレスも困惑する中、右目に傷を持つ兎人族の男もムニンの姿に気づき、持っていた剣を鞘へと収めた。

その行動に、私たちは首を傾げる。

​「よお、名無しの狼人族」

​「……僕はムニンだ。ブラウド」

​ブラウドと呼ばれた兎人族は、ムニンの言葉にニヤリと笑みを浮かべた。

​もしかして、二人は知り合いなの?

私は、思いがけない展開に驚きを隠せない。

​「いい加減ここを通してくれないかな? 君たちが僕たちを襲っても、何のメリットもないだろ?」

​「いや、そんなことはない。この中には、人間族に家族を殺された者たちがいるんだ。その家族が、敵を討ちたいと思うのは当然だろ? 昨日、お前が助けた狼人族の子供だって、同じ気持ちだったはずだ」

​ブラウドはムニンを試すような視線を向けた。その言葉に、ムニンは静かに首を横に振る。

​「……違う」

​ブラウドとムニンの緊迫したやりとりを、私たちはただ見守ることしかできなかった。