「六月の岬に用事があるだけだ」

​「……その言葉、信じられると思うのか?」

​男の言葉に、周りの兎人族が一斉に声を上げた。

​「そんなの嘘だ!」

「こいつらは森を荒らしに来たんだ!」

「俺たちを殺しに来たんだろ!」

​見当違いな言葉に、私は何か言い返そうと口を開いたが、アレスが先に声を上げた。

​「俺たちはそんなことしない! 本当に、ただこの先の岬に行くだけなんだ!」

​しかし、兎人族たちは聞く耳を持たない。

​「残念だが、俺たちは人間を信じない。もし本当にこの先に用があるというなら、それを証明して見せろ!」

​その言葉と同時に、武装した兎人族たちが一斉に私たちに襲い掛かってきた。

​「まったく、仕方ないわね」

​カレンは鞘から魔剣サファイアを抜き放つ。その刃は、冷たい月の光を反射して鋭く輝いた。

​「アレス、ソフィアちゃんを守ってくれよ!」

​ロキは右手を高々と掲げる。彼の周囲の空気が熱を帯び始めた。

​「精霊よ、我が炎に応え、敵を焼き尽くせ! 焔の翼(フレイムエール)!」

​炎の精霊たちがロキの呼びかけに応えるように、彼の腕に集い、巨大な炎の翼となって空へと羽ばたいた。

​カレンもまた、静かに言葉を紡ぐ。彼女の周囲には、目に見えない氷の精霊たちが集まっているのが感じられた。

​「氷の精霊よ、清き力で、彼らを眠りにつかせよ。氷の薔薇(グラースローズ)!」

​カレンの言葉に応え、無数の氷の結晶が集まり、巨大な氷の薔薇となって敵に向かって放たれた。

​四、五十人近くいた兎人族は、ロキの業火とカレンの氷の力によって、次々と戦闘不能に陥っていく。

​「す、すごい……」

​これが、精霊の力を借りし"業火の魔道士"と"氷結の魔道士"の力……。

まるで自然の力がそのまま具現化したようだ。

​「ソフィア! 感心している場合じゃないわよ!」

​「えっ?」

​テトの鋭い呼びかけで後ろを振り返った時、数人の兎人族が、怯んだ様子もなく私たちに襲い掛かってきた。