しばらく森の中を走り続けていると、あたりに濃い霧が立ち込めてきた。

そのことに気づいたムニンが足を止めると、私たちもつられて立ち止まる。

​「これじゃあ、六月の岬にたどり着けるか分からないな」

​ロキはそう言いながら、あたりに視線を送った。

​しかし、アレスは何かを察したのか、私の手を握る手にぐっと力を込めた。その時だった。

​「あ、れ……」

​一瞬、目の前が揺らぐ。意識が遠のきそうになり、体が前のめりに倒れかけた。

​「おっと!」

​すぐにアレスが気づいてくれて、空いている方の腕で私の体を支えてくれる。

​「ご、ごめん、アレス」

​アレスは何も言わず、じっと私を見つめると、そっと自分の方へと引き寄せた。

​その行動に驚いていると、ロキとカレンが私たちを囲むように配置につく。

​「カレン、ロキ。この霧は吸っちゃ駄目だぞ」

​「分かっています」

​「そんなことより、ソフィアちゃんのことは頼んだぞ!」

​ロキの言葉に頷いたアレスは、目の前に手をかざす。

​「風の精霊よ、我が意志に従い、道を開けよ。(ウィンド)!」

​風魔法のおかげで、霧が少しずつ晴れていく。

そのことに安堵してアレスの顔を見上げた時、私は息をのんだ。

​アレスは、そしてカレンも、ロキも、皆が恐ろしいほど真剣な表情でまっすぐ前を見据えている。

​まさかと思い、私も皆が見つめる先へと視線を送った。

​「……兎人族!」

​霧が晴れ、姿を現したのは武装した兎人族たちだった。

彼らは皆、殺気だった表情で私たちを睨みつけている。

​私の肩に乗っているテトも、毛を逆立て、爪をぎらりと光らせた。

​すると、武装した兎人族たちの一人が、地面に降り立った。

右目に傷を持つ男は、剣の切っ先を私たちに向け、問いかけてくる。

​「お前ら、この先に何の用だ?」

​その質問に答えるように、アレスが口を開いた。