「げっ!!」

そこに居た人物を見て思わず変な声が出てしまい、私は慌てて両手で口元を覆った。

「……やあ、ソフィア。なんだか顔が青いようだけど、一体どうしたのかな?」

「……こ、こんにちは〜……アレス。あ、青い顔なんで浮かべていないわよ。あ、アレスの見間違いじゃないの?」

何て言っているけど、アレスは相当怒っているのか、鋭い目で私を見てくると目を軽く細めた。

その目を見て私の背中にダラダラと汗が滝の如く流れ落ちていく。

やばい……怒られる覚えがありすぎで、これ以上下手なこと言ったら、確実にお説教タイムが始まる!

「あ、ははは……」

私は苦笑しながら開きかけた魔法書を、アレスに見えないようにそっと閉じた。

「へぇ〜……この俺を前にして恍けるなんて、いい度胸してんじゃん」

「ど、度胸だなんて……そもそもそんな物、持ち合わせているわけないじゃない。あ、ははは……へ、変なこと言わないでよ?」

「あ、っそう。……そう言うこと言うんだな。正直に言ってくれていれば、俺だって怒る事はやめようと思っていたのに、嘘をつくって事はそんなに怒られたいみたいだな」

その言葉に私の両肩が再び大きく上がった。

アレスは胸の前で組んでいた腕を解くと、づかづかと私のところまで歩みよって来る。

「っ!」

ま、まずい! 怒られる!!

そう思って怒られる覚悟を決めた時、アレスは右手を上げるとそっと私の額に手のひらを当てた。

「えっ……?」

アレスはじっと私の顔を覗き込むと、『やっぱり』と小さく呟いてから、私の体をいきなり抱き上げた。

「ちょっ!? いきなり何するのよ!?」

「言っただろ! 安静にしてろって!」

「うっ……」

アレスにお姫様抱っこされながら、私は優しくベッドの上に下ろされた。

私はアレスの顔を見上げる事なく、ちょっと気まずそうに視線を逸した。

実を言うと昨日、私はアレスの居ない場所で魔法を使って倒れたのだ。

ミッシェルに頼んで何とかバレないように運んで貰ったんだけど、どうやらテトがアレスに報告したらしい……。

「まったく……お前の勉強がしたい気持ちは分かるけど、頼むから今は自分の体を労ってくれよ」

「だ、だって!」

「言い訳は聞かないからな」

「うっ……」

アレスは胸の前で腕を組むと、私に有無を言わせる前に一刀両断した。

その姿を見て本気で私の言い分を聞く気がないのだと知り。

「……はい」

私はがっくりと肩を落として素直に頷いて見せることしか出来なかった。