​私たちの前をテクテクと歩くムニンは、辺りの気配を探りながら進んでいた。

​「ちょうどこの辺りが、兎人族と狼人族が縄張り争いをしているところかしらね」

​テトの言葉に、私はあたりに視線を巡らせる。

ここに来るまでに、テトから縄張り争いの話を聞いていた。

確かにこの森に漂う空気は、どこか嫌な感じがする。

動物の姿も見えず、木の実は枯れている。

​「何もしなければ襲ってくることはないわ。兎人族より狼人族の方が気が荒いわね」

​「あいつらが人間を襲っても、何のメリットもないからな」

​「た、確かに……」

​ムニンの言葉に、ロキは納得したように頷く。

​でも、私はある違和感を感じていた。誰かに見られている、とでも言えばいいだろうか。

​「ソフィアも気づいているのか?」

​周囲に目を配っていた私の行動に気づいたアレスが、耳元で静かに囁いた。

アレスの言葉に私は小さく頷き、目を閉じて気配を探る。

​「十……二十……ううん。それ以上の数が、じっと私たちの様子を伺っている」

​「おそらく兎人族だ。俺たちが変な動きを見せないか見張っているんだろう」

​アレスは目を細め、二人に向かって声をかける。

​「カレン、ロキ」

​その声に反応した二人は無言で頷いた。

カレンは魔剣サファイアの柄に手をかけ、ロキは上着のポケットから手袋を取り出してはめる。

​二人の姿を見た私は、慌ててアレスに尋ねた。

​「まさか、戦うの?!」

​私の言葉に、アレスは首を横に振る。

​「今のところ、その気はない。でも襲ってきたら――」

​「へっ、撃退すればいいんだろ? 任せろ!」

​「早く行くぞ!」

​ムニンの声に、アレスは私の手を握って走り出した。

​「きゃっ?!」

​アレスに続いて、カレンとロキも走り出す。

ムニンは先頭を走りながら、私たちを導くように道を切り開いていった。