「おはよう、アレス。どうぞ」

​「おはよう、ソフィア。それじゃあ、お邪魔するぞ」

​アレスを部屋に招き入れた時、ロキの姿がないことに気がついた。

でも、さっきカレンの魔法で氷漬けにされたのだろうと思い、特に気にすることなく扉を閉め、アレスのそばへと歩み寄った。

​「体の方は大丈夫か?」
​「うん、さっきカレンに診てもらったけど、特に問題はないって」

​私の言葉に安堵の息を吐き、アレスは口元を緩めた。

「それはよかった。まったく……今さっきなんて、またロキのやつがうるさくてかなわない」

​「ふふ、アレスはロキのことが好きなんだね」

​「えっ、そんなんじゃねえよ ! ただ……昔からああだから、慣れてるだけだ」

​アレスは少し照れたように視線をそらした。その様子に、私はくすりと笑ってしまう。

​「でも、体の調子がいいからって言っても魔法を使わせる気はないからな」

​「うん、分かってる。それ、さっきカレンにも釘を刺されたし」

​そう言って軽く頬を膨らませると、アレスの足元にちょこんと座っているムニンが目に入った。

​ムニンは昨夜、どこかへ出かけていたはず。一体いつ戻ってきたのだろう?

​私は軽くしゃがみ込み、座ったまま眠っているムニンに優しく声をかけた。

​「おはよう、ムニン。すごく眠そうだね、大丈夫?」

​「うん……なんとか」

​そう答える割には、体がふらついている。

アレスもムニンを見つめ、心配そうな表情を浮かべた。

​「さあ、準備もできたことだし、そろそろ向かいましょうか」

​テトの一言に、私とアレスは大きく頷いた。

☆ ☆ ☆

​「うわあ! きれい!」

​真夜中の森へ向かうため、クロッカスを出た私たちは、森へと続く草原を歩いていた。

目の前に広がる草原は、風に揺れて草花がさざめいている。

​「夜だったから全然気づかなかったよ」

​私は少し先へ歩いて空を見上げた。

今日も快晴で、雲ひとつない。

こんな日にピクニックをしたら、きっと気持ちいいだろうな。

お昼寝なんてしたら、すぐに眠ってしまいそうだ。

​「今日の空は、いつもより青く見えるな」

​私の隣に来たアレスも、同じように空を見上げた。

その横顔を見つめると、頬が熱くなるのを感じた。

​「ねえ、アレス」

​「なんだ?」

​「……この仕事が終わったら、またどこかへ行きたいね」

​「そうだな。今度は仕事じゃなくて、本当のピクニックでもするか」

​アレスは私の言葉を否定せず、笑ってくれた。

それだけで、私の胸は温かくなった。

​「お〜い! 何してるのよ二人とも!」

​「早く来いよ〜!」

​真夜中の森の入り口で、カレンとロキが私たちを待っている。

その声に答えるように、アレスは軽く腕を上げた。

​「行くか」

​「うん!」

​その言葉に力強く頷いて、私たちは二人の元へと走り出した。