​「あ、ありがとうございました!私、ムーンのことは決して忘れません!」

​ソニヤはそう言って、涙を拭い、僕に向かって深々と頭を下げた。

​「……元気でやれよ」

​僕は小さく呟き、他の狼人族に存在を気づかれる前に、その場から姿を消した。

ソニヤは驚いたように目をわずかに見開き、僕がさっきまで立っていた場所を見つめている。

​「……さようなら、ムーン。今度会ったら、絶対に名前を教えてくださいね」

​ソニヤは涙を拭うと、村の中へと走り去っていく。その姿を最後まで見届けた僕は、そっと息を吐いた。

​六月の岬へ行くには、この森を必ず通り抜けなければならない。

その間に、兎人族が襲ってこないとは限らない。

狼人族も例外ではないだろう。

だが、岬の近くまで行けば、奴らでも僕たちを追いかけてくるのは難しいはずだ。

​なぜなら、六月の岬には【森の番人】がいるからな。

​「とりあえず、アレスたちには注意するように呼びかけておくか」

​森の出口に向かおうとし、最後に一度だけ村の入り口を見つめた僕は、その場から姿を消した。