ヴェルト・マギーア ソフィアと竜の島

「なぜお前たちがこんな大人数で、この子を確実に仕留めようとしているのかは知らない。元狼人族の僕には関係のない話だからな。でも……」

​僕は右腕を変形させ、鋭い爪を構えた。今にも兎人族たちに襲いかかろうと身構え、目を細めて低い声で言い放つ。

​「この子を殺すと言うなら、僕は今、この場でお前たちを殺しにかかる」

​その言葉に、剣を構えていた兎人族の一人が声を上げる。

「ブラウド兄貴、どうします? こいつ、ただの狼人族じゃないみたいですよ」

​「ああ、分かっている」

ブラウドはそう答え、僕の目の前まで歩み寄ってきた。

​「わかった。その子は殺さないとしよう」

​ブラウドと呼ばれた男の言葉に、僕は驚いて構えていた右腕を下ろした。

​「このまま見逃すっていうのか?」

​「ああ、その通りだ。確かに、俺たち大人がたかが子供相手にこんな大人数で来るものでもなかったしな。少々大人気ないと思っていたところだ」

​ブラウドは苦笑いすると、軽く左手を上げた。

その合図を見た他の兎人族たちは、渋々といった様子で剣を鞘に収める。

​「ちぇっ、せっかく見つけたってのに……」

​「しょうがねえよ。ブラウド兄貴がそう言うならな」

​「ていうか、本当に元狼人族なんですかね? 俺たちに刃向かうなんて、しかも他の狼人族と瞳の色が全然違う」

​仲間たちの囁き声が聞こえてくる中、ブラウドは僕のすぐ近くで気絶している仲間を抱え上げた。

​「どうやら、お前は他の狼人族と違って話ができる奴のようだな。元狼人族でありながらも、仲間を助けるなんて」

​その言葉に、僕は何も言わず視線をそらした。

「仲間」という言葉が、俺の胸に突き刺さった。

別に助けたくて助けたわけじゃない。

ただ、放っておけなかっただけだ。

​「言い忘れていたが、俺はブラウド。まあ、また今度会ったら、ゆっくりとお互いについて話そうじゃないか」

​ブラウドはそう言い残すと、気絶した仲間を担ぎ、森の闇へと消えていった。

彼の言葉は、何十年も前に捨ててきた過去の欠片を、再び僕の目の前に差し出されたかのように感じられた。

​その場に残されたのは、恐怖に震える少女と、複雑な感情を抱える僕だけだった。