「わ、私は……両親を殺した人を探しに来ただけです!」

​その言葉に、「母上が殺された」という記憶が脳裏をよぎり、僕は前に出かかった体を必死にこらえた。

​まさか……あの少女は、ただそのためだけに、誰にも内緒で村を出て、こんな危険な場所に来たというのか?

縄張り争いで種族同士が戦争をしていることくらい、子供でも知っているはずなのに。自らの命を危険にさらすなんて……なんて馬鹿なことを!

​「だからそれを見過ごせないんだ! お前のような子供がそんなことを知って、いったいどうするって言うんだ?」

​兎人族の一人、おそらくリーダー格であろう、右目に傷のある男が少女に問いかける。

​確かに彼の言う通りだ。子供がそんな真実を知って、どうなるというんだ?

そんなことを知ったところで、自分が傷つくだけだというのに。まさか、敵討ちでもするつもりか?

​「兄貴〜、そろそろやっちゃいましょうぜ」

​そう言って、一人の兎人族が少女の前に立ち、剣を構えた。

​「ひぃ!」

​その光景を見た僕は、地面を力強く踏み込み、男のもとへと駆け出した。

そして、少女めがけて振り下ろされた剣を、変形させた爪で受け止めた。

​「なっ!」

​突然目の前に現れた見知らぬ男に驚き、兎人族は焦って柄から手を放し、後ずさる。

​「だ、誰だお前!?」

​僕は手の中にある刀身を力を込めて破壊し、黄緑色の瞳を鋭く細めた。

​「こいつと同じ、狼人族だ」

​その言葉に、右目に傷のある兎人族は目を見開いた。

しかし、周りの奴らは、僕が狼人族だと知ると、それぞれ剣を抜き、構え始めた。