​そう考え込みながら森の中を走っていた時、僕は不意にある気配に気づき、足を止めた。そして、すぐ近くの茂みに身を潜め、耳を澄ます。

​すると、そう遠くない位置から足音が聞こえてきた。耳をぴくぴくと動かし、その足音の主を特定しようとする。

​「この足音は……兎人族か?」

​三人、いや、七人くらいか。そんな大勢で一体何を追いかけているというのか?

僕は足音がする方へ向かうため、高く木の枝へと飛び移る。枝から枝へと移りながら、足音が聞こえる方角へと進んでいく。

​そして、兎人族たちを見つけた時、僕は自分の目を疑った。

​「なっ!」

​兎人族たちが必死に追いかけていた人物。それは、まだ幼い、狼人族の少女だったのだ。

​「な、なんで子供がこんなところに!?」

​子供は成人するまで村から出ることを許されていないはずだ。

それなのに、なぜこんな夜遅くに、一人でこんな場所にいるんだ?

​僕は、見つからないようにそっと地面に着地し、兎人族たちと少女の様子をうかがった。

​「さあ、覚悟しろ! この狼人族めが!」

​その威圧的な声に、少女は目に涙をためて体を震わせている。

どうやら、自分の置かれた状況を理解できていないようだった。

なぜ自分が追われているのかも分からず、ただ恐怖という感情に支配され、足すらまともに動かせないでいる。

​しかし、少女は震える体を必死に落ち着かせようと、涙を拭ってから大きく深呼吸をした。

その健気な姿に、僕は軽く目を見開いた。