​「童話の話を読んでいれば、物語に出てくる狼人族や鳥人族のモデルが彼らだと分かるはずだけど、ソフィアは『面白くない』って言って、全然興味を示さなかったものね」

​テトは両手を上げて、やれやれとため息をついた。
​確かにテトの言う通りだ。

童話のような物語に興味が持てず、「物語に出てくる狼人族や鳥人族、ユニコーンやドラゴンなんて全部夢物語だ」と思い込んでいた。

​「でも、いいんじゃないか? ソフィアが知らなかったことを、新しく知ることができたんだからさ」

​アレスはそう言って、私の頭にそっと手を置いた。その姿に、私は顔を赤くして頬を膨らませる。

まるで子供扱いされたような気がして、アレスをひと睨みした後、そっぽを向いてしまった。

​☆ ☆ ☆

​「……」

​アレスたちと別れた僕は、一人、真夜中の森の入り口まで来ていた。静かにその奥を見つめる。

​月明かりが僕の影を入り口へと伸ばしていくが、その光は決して森の内部を照らすことはない。

入り口に伸びた影はそのまま、森の奥に広がる闇の中へと消えていった。

​その光景を見届けた僕は、唇を軽く噛みしめ、右拳に力を込める。

​「こんな場所に来て、僕は一体どうするつもりなんだ……!」

​僕が狼一族を抜けてから、もう四十年も経つ。

そんな僕が今さら、昔の様子を見に行くなんてどうかしている。あんな辛い思いをしたのに、それを自ら掘り起こそうというのか?

​そう心の中で自問自答しながら、僕は右拳の力を緩め、複雑な感情を抱えたまま表情を歪ませた。
​そして、一歩前へと足を踏み出した。