​宿に着いて、さあこれから寝ようという時、アレスの肩に乗っていたムニンが突然口を開いた。

​「アレス、ちょっと外に出てくる」

​「え、こんな時間に？」

​夜も遅い。いったいどこへ行くというのだろうか。
​「朝までには戻るから、そんなに心配しないでくれ」

​そう言って、ムニンはアレスの肩から飛び降り、人間へと姿を変えた。その瞬間、私は思わず声を上げてしまう。

​「む、ムニンって人間になれたの？！」

​私の驚きに、ムニンは少しムッとした表情を浮かべる。

​「ソフィアって、狼人族を見たことがないのか？」

​「だ、だって狼人族って、めったに森から出てこないじゃない？だから、初めて見たっていうか……」

​確かに魔法書には、狼人族は人間族と似た容姿をしていると書かれていた。

だが、こうして間近で見るのは初めてだったし、本当に人間族とそっくりだなんて思ってもいなかった。

​「ああ、この子には無理よ」

​「テト？」

​私の右肩から床に降りたテトは、座り直して説明を始めた。

​「この子、そういう話には疎いのよ。童話とか、異世界の話とか、そういうのを全く聞かされずに育ったから、狼人族が人間族に近い姿をしているなんて信じてないのよ」

​テトの話を聞いた四人は、一斉に私へと視線を向けてきた。

もしかして、みんなは狼人族が人間族に似た姿をしていることを知っていたのだろうか？

​「確かに、童話には狼人族以外にも兎人族や鳥人族を主人公にした物語はたくさんあります。小さい子なら、いくつか読み聞かせてもらうのが普通なはずですが」

​「あー、俺も母さんから聞いたことがあるな。鳥人族が狼人族に攫われた姫を助けに行く話だったけどな」

​「俺も母さんから聞いたことあるぞ」

​「えっ！」

​アレスも童話を読んだことがあるの？！

それに、みんなも……。

​じゃあ、この中で童話の話を知らないのは、私だけってこと？！