汽車に揺られること数時間――

​私たちは「クロッカス」に到着した。駅を抜けて外に出ると、目の前に広がる夜景に、みんなから歓声が上がった。

​夜空の星々が地上に降り注いだかのように、街の光がキラキラと輝いている。その光景に、私も思わず瞳を揺らした。

​「綺麗……」

​小さな声が、ポツリとこぼれる。

​「さすがクロッカス。夜でもこんなに綺麗な街なんだな」

​「確か、クロッカスの夜景は世界三大夜景の一つだったかしら。次に有名なのが『水の都スイレン』らしいわよ」

​私の右肩に登ったテトが、頬に頭を擦り寄せながら教えてくれた。

​「『水の都スイレン』か~。あそこは水が豊富で有名だし、水を使った祭りもあるらしいから、一度は行ってみたいね!」

​ロキがそう言いながら私の隣に来ると、いきなりギュッと私の手を掴んできた。

突然のことに驚き、私は目を大きく見開いてロキを見上げる。

​「ろ、ロキ……?」

​ロキはなぜか瞳をキラキラと輝かせ、私をじっと見つめている。

その顔は「一緒に行かない?」と誘っているようにしか見えない。

​どう返事をしていいかわからず、苦笑いを浮かべていると、地図を見ながら真夜中の森への行き方を考えていたアレスが、地図を持っていない方の手で、ロキの服の襟元を掴んでぐっと引き寄せた。

​「ぐぇっ!」

​「お前は本当に懲りないみたいだな。一度、本気で怒った方が懲りるのかな?」

​一見、とても穏やかな表情を浮かべているアレス。しかし、こめかみがひそかにぴくぴくと動き、笑顔を浮かべている頬がわずかに引きつっているのが見えた。

そのただならぬ雰囲気に、私は思わず後ずさりしてしまう。

​最近、アレスに怒られることは多かったけれど、こんなに怒っているアレスは初めて見た。

よほどロキの私に対する行動が許せないのか、それとも何か別の理由があるのか。

どちらにしろ、ロキはいったい何度アレスを怒らせれば気が済むのだろうか。私は小さくため息をついた。

「アレス。そんな馬鹿は放っておいて、今日はもう宿を探しましょう」

​カレンの声が、冷ややかに響いた。

​「そうだな。このアホは放っておいて、宿探しをしよう」

​ロキの服の襟元をぱっと離したアレスは、踵を返して歩き出す。それに続いて、私とカレンも歩き始めた。

​「ちょ! また置いていくのかよ!」

​ロキの叫びに、カレンは軽くため息をつくと、鋭く冷たい視線をロキに向け、容赦なく言い放った。

​「アホは地面で寝ろ」

​「ひっ!」

​そのあまりに冷え切った声に、ロキは後ずさり、一粒の汗をこめかみに伝わせた。

やはりカレンも相当イライラが溜まっていたのだろう。ロキに対する態度は一切容赦がなかった。

​……いや、それはいつものことだった。