​そんなみんなのやり取りを見て、私は思わず小さく微笑んだ。

​「ソフィア?」

アレスが不思議そうに尋ねる。

​「ううん、ちょっと楽しいなって思っただけ」

​まさか、こんな風にみんなと笑いながら汽車に乗る日が来るなんて、一ヶ月前の私には想像もできなかった。これも、全部アレスのおかげだ。

彼と出会ったから、カレンやロキとも知り合えたし、テトにも友達……いや、テトはそう思っていないみたいだけど、ムニンという仲間ができた。

​この先も、この繋がりをずっと大切にしていきたい。

みんなと一緒に色々な場所に行って、たくさんの思い出を作りたい。

そんなことをぼんやりと考えていると、アレスの優しい手のひらが私の頭に置かれた。

​それに気づき、顔を上げてアレスを見つめる。彼はただニコニコと、温かく微笑んでいるだけだった。彼の真意が分からず、私は首を傾げる。

​「あああああ! アレス! 俺のソフィアちゃんに何してんだよ!」

​ロキの叫び声に、アレスはさっと手を離した。

そして、ロキに視線を戻し、目を細めて問いかける。

​「いったい誰がいつ、お前のものになったって?」

​「いや……それは……」

​アレスの冷たい視線に、ロキは怯えたように顔を青ざめさせた。

本当にロキは表情がころころ変わる。見ていて飽きないけれど、疲れないのだろうかと心配になってしまう。

​「ソフィア、体の方は大丈夫?」

​さっきまで私の腕の中で眠っていたテトが、大きく伸びをして尋ねてきた。

​「うん、今のところは大丈夫だよ」

​そう言って、私は胸元にそっと手を置いた。

そんな私の様子を見たテトは、目を細めて「なら、良いわ」とだけ言い、再び眠りについた。

​まだ……あの傷は消えない。

サルワによって刻み込まれた魔法陣は、今もくっきりと残っている。

治癒魔法を施しても、決して消えることはない。その傷を見るたびに、あの日の光景が脳裏に蘇る。

​自分の体に、知らない人々の魔力が注ぎ込まれ、自分が自分ではなくなってしまうのではないかと感じたあの記憶。

それは、今でも時々夢に見るほど、私にとって深いトラウマとなっていた。

​あんな思いは二度としたくない。

自分が自分ではなくなるなんて……そんなの、絶対に嫌だ。

​この傷は、いつか必ず消えるはずだ。

消えさえすれば、あの記憶を思い出すこともなくなる。

そう、きっと……。