​駅に到着した私たちは、クロッカス行きの汽車に乗り込んだ。深夜のためか、車両には私たちしかおらず、静寂の中でムニンの苦しそうな声だけが響く。

​「気持ち悪い……」

​「大丈夫か?」

​アレスに優しく抱きかかえられ、背中をさすられているムニンは、顔を青くして目を回している。

どうやら、ムニンは乗り物が苦手なようだ。乗った途端、気分を悪くしてしまった。

​「ふはっ! 使い魔も乗り物酔いするんだな!」

​グロッキーな状態のムニンを見て、ロキはカレンの隣に座って腹を抱えて笑っている。

さすがに笑いすぎだろう。

カレンは気にする様子もなく読書に夢中だ。

これは私が言うしかないか……そう思って口を開きかけた時、ムニンが腹を抱えて笑うロキを、ギロリと睨みつけた。

​そして、横になっていた体を起こすと、辛そうにもかかわらず、ムニンはロキの手を思い切り噛んだ。

​「いっっってぇぇぇ!」

​車両にロキの悲痛な叫び声が響き渡る。その声に、さすがにうるさいと思ったのか、カレンは静かに本を閉じ、口を開いた。

​「さっきからうるさいわよ。少し静かにしたら?」

​やっぱりカレンもそう思ってたんだ。

その言葉を聞いたロキは、痛みをこらえながら、目尻に涙を浮かべ、ムニンに噛みつかれた手をブンブンと上下に振った。

​「お前なぁ! この手を見ろよ! この手! 今どんな状況か言わなくても分かるだろ!」

​「おい、ロキ! ムニンを上下に振るな!」

​「あのアレスさん! 俺よりこいつの心配かよ!」

​アレスはムニンをロキから引き離す。

もちろん、ロキの手には真っ赤な歯形がくっきりと残っていた。

ロキは痛そうに歯形を見つめた後、ムニンに視線を向けた。

​「そんなに怒ることないだろ!」

​その言葉に、ムニンは再び歯を見せ、「これ以上言ったら噛みつくぞ」とロキを脅す。

ギラリと光る歯を見たロキは、さすがに二度目を食らうのは嫌だったようで、顔を青くしながら「すみませんでした」と呟いた後、軽く頭を下げた。