​「知らないわよ……」

​私は低い声で言い放った。仕事の内容すら詳しく伝えられていないのだから、アレスについて行くしかない。

もし知っていたら、とっくに彼を置いて先に行っているところだ。

​というか……本当に遅すぎる!

​「あら? あそこにいるの、そうじゃない?」

​テトが指差した先に視線を送ると、三つの人影が見えた。

私は目を細め、確認するようにテトに問いかける。

​「違うでしょ? アレスはムニンと一緒なんだから、三人なんておかしいじゃない」

​するとテトはにやりと笑い、黄金の瞳を細めて私の顔をのぞき込む。

​「もし、二人じゃないとしたら、どうする?」

​テトの問いかけに、私は首を傾げた。二人じゃない?

どういう意味だろう。

もしかして、アレス以外に誰か来るというのか?もしそうだとしたら……。

​頭の中に思い当たる二人の顔が浮かんだその時、遠くから会話が聞こえてきた。

​「ふざけるな! お前まで来るつもりかよ!?」

​アレスの右隣にいる人物が、不満げな表情でアレスの前に立ちふさがった。

​「てっきり俺だけだと思ってたのに、なんでカレンまで来るんだよ! 聞いてねぇぞ!」

​その言葉に、アレスは軽く笑みを浮かべると、右拳に力を込めて今にも殴りかかりそうな勢いで右腕を振り上げた。

​「おい、勘違いするなよ、ロキ。俺はお前だけじゃなくてカレンもって言ったはずだが?」

​アレスの冷めた笑みを見たロキは、ガタガタと体を震わせながら、思い出したように何度も頷いた。

​二人のやりとりを呆れたように見ていると、今度はアレスの左隣にいた人物が口を開いた。

​「私はソフィアの体調を管理する義務があるんだから、ついて行くのは当たり前でしょ。それに……」

​カレンは腰の魔剣サファイアを鞘から抜き、刀身に冷気をまとわせ、切っ先をロキに向けた。