「ザハラ様!!」

すると後ろの方で、私の付き人である『ヨルン』が慌てた様子で、こちらへと走り寄って来るのが見えた。

その姿を横目で見送りながら、私は軽く首を傾げた。

いつもだったら落ち着いた様子で仕事をこなしている彼にしては、珍しく慌てた様子だったから、疑問に思った私は口を開いた。

「どうしたのですか? ヨルン」

ヨルンは私の元まで辿り着くと、乱れた息を整えながら真剣な眼差しで言い放った。

「ついに、見つかりました!」

「っ!」

その言葉に私は目を大きく見開いた。

しかし直ぐに自然と笑顔が浮かんだ。

「ようやく見つけましたか」

エーデルが姿を消す前に感じた、禍々しい魔力の持ち主がようやく見つかった。

時間は掛かってしまいましたが、これでようやく――

私はヨルンの横を通り過ぎ石段を下りて行く。

「ザハラ様。一体どうするつもりですか?」

そんな私の後ろ姿を、ヨルンは不安気に瞳を揺らしながら見つめてくる。

「そうですね……」

彼が不安に思うのも無理もないでしょう。

だって、これから私がやろうとしている事は、簡潔に言ってしまえば『殺し合い』だ。

誰だってそんな事をすると知ったら不安に思うものだ。

石段を最後まで下りた私は、村を見渡せるところに立って空に向かって左手をかざした。

「ヨルン。今直ぐに用意して欲しい物があります」

「はい!」

あの魔力の持ち主を呼びつけるには、この手が最善でしょう。

ヨルンの集めてくれた情報のおかげで、彼女の友人関係は全て把握している。

さあ、彼は無事にあの岬まで辿り着けるのでしょうかね?

「本当に私たち『竜人族(リザードマン)』が使えるのに値する存在なのか、この目で見極めなければ」

そう小さく呟いた私は、遺跡の方をもう一度振り返り、エーデルが座っていた場所を見つめた。