「あっ! ソフィアちゃん!」

にぎやかな食堂のざわめきを切り裂くように、ロキが私の名を叫んだ。人混みをかき分けるその勢いに、私は思わず一歩後ずさる。子犬が飼い主を見つけたように、満面の笑みで駆け寄ってくるロキに、私は戸惑いを隠せない。

「おはよう、ソフィアちゃん!」

「お、おはよう……ロキ」

彼と初めて顔を合わせたのは、つい最近のこと。

病室での偶然の出会いから、私はなぜか彼に懐かれている。特別話したこともないのに、こうして毎回嬉しそうに駆け寄ってくるのだ。この奇妙な状況に、私はいつも戸惑ってしまう。

一体、どうしてなのだろう?

「おい、それ以上ソフィアに近づくな!」

「ぐえっ!」

ロキの襟首を掴み、勢いよく後ろに引っ張ったのは、彼を追いかけてきたアレスだった。ロキは不格好な声を上げてよろめく。

「おはよう、アレス」

「ああ、おはよう。体はもう良いのか?」

「うん、この通り、体がすごく軽いの。まるで羽根が生えたみたい」

「……軽い?」

私の言葉に、アレスは眉をひそめる。

疑わしげに、私の体を上から下まで値踏みするように見つめた。

その視線に、私は少し居心地の悪さを感じる。

「アレス〜、早く行こうぜ! 俺、腹減った」

ロキの無邪気な声が、張り詰めた空気を破った。

アレスは苛立ちを隠せない様子で目を細める。

「眠いって言ったり、ソフィアって言ったり、本当にお前は気分屋だな」

「せりに腹は変えられぬ」

「『背に腹は変えられない』だろ?」

アレスは呆れたようにロキの頭を軽く小突く。そのやり取りを、ミッシェルは楽しそうにくすくすと笑いながら見守っていた。

「それじゃあ、行こっか」

私とミッシェルが先に歩き出した、その瞬間だった。アレスが「悪い!」と叫び、私たちの足を止める。

「忘れ物したから、先に行って食べててくれ!」

「えっ?!」

「すぐ戻る!」

私たちの返事を待つことなく、彼は踵を返し、人混みの中を駆け抜けて食堂から出て行ってしまった。

彼の慌ただしい様子に、ロキは呆れたように肩をすくめる。

「朝から慌ただしいな。ほらソフィアちゃん、あいつは放っておいて食べに行こうよ」

「う、うん……」

彼の急な行動が少し気になったけれど、私はミッシェルたちと一緒に、カレンが待つ席へと向かった。

遠ざかるアレスの背中をちらりと見つめながら。