ヴェルト・マギーア ソフィアと竜の島

「本当に、皆さん、ありがとうございました」  

竜の島――ラスールを出立する、清々しい朝。

俺とソフィアたちはザハラに案内され、最初にこの島へ船から飛び降り立った、あの海沿いの岬へとやって来ていた。潮風が強く吹き付け、塩の匂いと遠くで囁く波の音が聞こえる。

そしてザハラは、深く背筋を伸ばしたまま頭を下げた。

その声には以前の迷いは消え、一族を率いる者としての張り詰めた響きが加わっていた。

ブラッドさんから話を聞いてから数日が経ち、傷の具合も皮膚が完全に繋がるほどに良くなってきた。それを機に、俺たちはラスールを出る事に決めた。

ソフィアの体から高熱も無事に引き、レーツェルさんも指先でソフィアの額に触れながら『これからは、いつも通り魔法を使っても大丈夫ですよ』と明確な許可を与えてくれた。その言葉にソフィアは目を輝かせ、心の底から凄く喜んでいた。俺も内心、重い荷を下ろしたかのようにホッとしていた。

「だからって、まだ病み上がりなんだから、私としてはしばらく魔法は自主的に控えてもらいたいところだけど」  

レーツェルさんに言われた言葉に、ソフィアが両腕を振りながらはしゃぐその側で、テトは丸い黄金の瞳をチカッと光らせると、彼女の右肩の上でそんな事を言っていたのを思い出す。

「お礼を言うのは、どう考えてもこちらの方だ。結局、怪我がほぼ治るまで家に置いてもらってたんだし、それに身の回りの事までしてもらっちゃって」

「それは当然のことです。あなた方にはたくさん迷惑を掛けてしまったのですから。それにヨルンの事も……」  

ザハラはその名を呟くと、瞳を悔恨と悲しみの色で揺らしながら、遠い、高い空を仰いだ。彼女に釣られて俺とソフィアも眩しいほどの青空を仰いだ。

「エーデルにも誓いましたが、私は竜人族の巫女としてこの後の未来も、民たちを正しく導いて行こうと思っています。ヨルンが理想としていた巫女と言う存在が、一体どういうものだったのかは分かりません。しかし私は、その像を模索し続け、少しでもヨルンが理想としていた巫女に近づけるような存在になりたいと思っています」

「ザハラならなれるよ。きっと誰よりも真摯な、立派な巫女に」

ソフィアの声は、差し込む朝日のように明るく、ザハラの決意を強く肯定した。