ヴェルト・マギーア ソフィアと竜の島

☆ ☆ ☆

「……っは、くそ」

ザハラの家から飛び出した俺は、人気の少ない森の中を歩きながら、まるで病人のようにヨロヨロと体を揺らしていた。背筋を伸ばすことさえ苦痛だった。

しかし歩き続けているうちに、身体が限界を迎えた。胃の奥から込み上げる不快感に耐えきれず、俺はその場に崩れ落ち、膝をついて地面に体を伏せる。

そして――

「うっ、ぐ、ゲホッ!」

反射的に嘔吐した。胃液とわずかに残っていたものが泥に叩きつけられる。

「ハァ……ハァ……ウッ、オェエ!」

しかし、一度吐いたところで収まらない。吐き気が波のように次々と押し寄せ、胃が痙攣する。身体は水分一つないのに、何度でも内臓を絞り出そうと抗議しているようだった。

俺は這いつくばったまま、その激しい衝動を歯を食いしばって抑え込もうとする。

「弱音を、吐くな! 誰も見ていないところで、屈するな!」

そう自分に言い聞かせながら、痙攣する腕に無理やり力を込め、上半身を起こそうとする。

「叫ぶな! 泣くな! この様を、誰にも知られるな!」

そう胸の中で叫んでいるにもかかわらず、止めどなく溢れる熱い涙が頬を伝い泥と混ざり合う。

激しい憎悪、後悔、そして底知れない怒りに、俺自身の理性が飲み込まれていく気がして、俺は無意識に首から下げた翡翠色の守護をを、血管が浮き出るほど強く握りしめた。

「ようやく、ここまで来たんだ! 今更、こんな過去の感情に押し潰されてどうするつもりだ!」

たかだか、あの癪に障る黒猫ごときが突きつけてきた一言で、何年もかけて心の奥底に封じ込めてきた感情と記憶が、ダムが決壊したように一気に押し寄せてきやがった!

「クソッたれが!」

俺の頭の中で、決して開けてはいけない箱に閉じ込めたはずの、あの日の記憶が鮮明に再生される。

「ごめん……オフィーリア……ごめんよ!!」

涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながら、俺は命の火が消えかけたオフィーリアの体を壊れるほど強く抱きしめていた。

「絶対守るって言ったのに……! 一緒に未来へ行こうって……そう約束したのに!」

俺は守護石を握る手に、全ての念を込める。何とかこの悍ましい記憶を、もう一度、暗闇に封じ込めようと必死に試みる。

だが、一度解放された記憶は止まらない。頭の中を走馬灯のように、あの光景が駆け巡る。

「ブラッド……私も……あなたが好き」

その震えるような囁きに、俺の右目から熱い一滴の涙が流れ落ちた。彼女は最後の力を振り絞り、俺の唇に冷たい自分の唇を押し当ててきた。

「ようやく……ようやく、伝えられた……。私は……これでもう……満足です」

そう言って彼女は、まるで光が失せていくように儚く、そして切なすぎる微笑みを浮かべた。その顔は、幸福と、俺を置いていく辛さがないまぜになっていた。

俺は、そんなオフィーリアの体が徐々に熱を失い冷たくなっていくことに気づき、恐怖と焦燥から叫ぶように言葉を吐き出した。

「満足だなんて……そんなこと言うな! 俺は! まだお前に見せたい景色が、たくさんあるんだ! お前と一緒に……いろんなところに行って、たくさんの思い出をこれから作っていきたいんだ!」

抑圧していた、全ての悲嘆と後悔の念が一気に溢れ出し、俺はその場で生まれたての獣のようにうずくまり嗚咽する。

「くっ……うぅ……オフィーリアァ!」

こんなところで、弱さを見せて泣いている場合ではないことは頭の片隅で理解していた。

だが、この感情の瓦礫に埋もれた状態で、アルたちの前に戻るわけにはいかないんだ。