ヴェルト・マギーア ソフィアと竜の島

「オフィーリアが、ブラッドの恋人だったからだ」

その言葉に、俺とソフィアは同時に目を丸くした。

オフィーリアさんがブラッドさんの恋人……。つまりブラッドさんは、亡くなった彼女のために、この過酷な旅を続けているということなのか。

「これが理由だ。どうだ? 納得したか、性悪女」

アルさんはテトを一瞥する。

「あら、失礼な言い方ね」

テトはそう言いながらも、不満そうな様子は見せずソフィアの元へと戻ってきた。

「死んでしまった恋人のため、か。それなら、大いに納得できるわね」

「……テト」

ソフィアがたしなめるように名を呼ぶ。

テトはなぜかニコニコしながら、満足そうに尻尾を左右に揺らしている。まるで長年の謎が解けて溜飲が下がったように見えた。

「ねえ、あと一つ良いかしら? 星の涙がこの世界から消滅したということは、星の涙はエアの願いを叶えた、ということで良いのかしら? 誰を『トト』に選んだのか、とても気になるところなんだけど」

そのテトの問いかけに、アルさんはレーツェルさんへと視線を送った。レーツェルさんは静かに力強く頷く。

「星の涙は、ブラッドをトトとして選んだ」

アルさんが告げた。

「っ!」

その事実に、俺たちは再び息を呑んだ。

ブラッドさんが……この『世界のトト』。

「だが、あいつはトトになることを望んでいなかった。ただ、トトにならざるを得なかったんだ」

「……っ」

だからブラッドさんはさっき、「俺のせいで」と言ったのだろうか? 自分のせいで大切な恋人の命を奪ってしまったと、深く自責しているのだろうか。

「ブラッドは、オフィーリアと一緒に未来へ行くことを強く願っていました。だから彼は、エアの願いよりもオフィーリアの命を優先しようとしていました。でも……結局は運命を変えることができず、オフィーリアはブラッドの目の前で息を引き取ったのです」

レーツェルさんは悲痛な面持ちで語る。

「だからさっき、エアのことを嫌いだと言ったのね。エアの差し出した対価と、死ぬ前に星の涙に願ったことの全てを、オフィーリアさんは背負っていた。それさえなければ、彼女は今でも彼の隣で笑っていたかもしれないわね」

テトが静かに言い放った。

「テト!」

ソフィアは慌ててテトの口を塞ぐ。

しかし、アルさんとレーツェルさんは特に気にした様子もなく首を横に振った。

「私たちにとって、エアの願いは私たちの願いでもあります。本当は、その願いのために私たちは動かなければならない。でも……それと同じくらい、私にとってオフィーリアは大切な存在だったのです。もっと私に力があれば、あの子を死なせずに済んだかもしれないと、何度そう思ったことか……」

レーツェルさんはそう言って、一筋の涙を零した。

その姿に、アレスさんの胸は強く締め付けられた。

きっとブラッドさんは、想像を絶するほどの後悔を抱えているのだろう。自分のせいで彼女を殺してしまったと、何度も何度もそう思ったに違いない。

「彼女が果たせなかったことを、彼は今、果たそうとしてくれています。ですからどうか、ブラッドに力を貸してください」

レーツェルさんは涙を拭うと、俺たちに深々と頭を下げた。

「レーツェルさん……」

「……とりあえず、残りの滞在日を使って、お前たちは治癒に専念するんだな。もしまだ分からないことがあるなら、あとは個別にあいつに聞け」

アルさんは最後にそう言うと、レーツェルさんの手を引き、二人は静かに部屋から出ていった。

そんな二人の姿を見届けたエクレールさんとサファイアも、魔剣の姿に戻るとそれぞれの主の元へ戻る。

「……」

俺は戻ってきたエクレールさんの鞘を見下ろしながら、密かに決意を固めていた。

ブラッドさんの話は驚くことばかりだったが、それと同時に自分にしかできないことがあるのだと知ることができた。

エアと守護者たちが交わした約束を果たすために、自分たちは一刻も早く集結する必要がある。

だからこそ、この自分の力でブラッドさんの力になれればと思った。

守護者としてまだまだ未熟だが、この力を完全に物にできればソフィアだって守ることができるのだ。

「よし……!」

俺は覚悟を持って、鞘を握る手に力を込めた。