食堂の扉をくぐると、熱気と活気に満ちた喧騒が、一気に私を包み込んだ。食欲をそそる香りがふわりと漂い、生徒たちの楽しげな話し声や、食器の触れ合う音が響き渡っている。

「すごい人……!」

思わず呟いた。やはり、皆この食堂の再開を心待ちにしていたのだろう。無理もない。このエアトート魔法学校の食堂で腕を振るうのは、父様が自ら選び抜いた、名だたる料理人たちなのだから。

彼らが織りなす至高の料理を味わえるのは、この学園に籍を置く生徒たちだけに許された、まさに特権中の特権だった。

人波をかき分け、ようやく少し開けた場所に出たとき、私は見慣れた金色の髪を見つけた。

「ミッシェル〜!」

私の声に気づき、振り返ったミッシェルは、その大きな瞳を驚きに見開いた後、ぱっと花が咲くような笑顔を見せた。そして、人混みを縫うようにして、こちらへ駆け寄ってくる。

「ソフィア?! 体、もう大丈夫なの?」

その声には、安堵と心配が入り混じっていた。

「大丈夫よ。見て、この通り元気だから!」

私は満面の笑みで応えた。

「よ、良かったぁ〜!」

ミッシェルは、目にうっすらと涙を浮かべながら、勢いよく私に抱きついてきた。突然の衝撃に、体が後ろに倒れそうになる。ぐっと足を踏ん張り、なんとか転倒を免れた。

「ちょっと……危ないじゃない」

「だってぇ〜、ここ最近ずっと倒れてばっかりだったから、本当に心配だったんだからね!」

「ご、ごめんってば」

私は苦笑しながら、まるで幼い子をあやすように、ミッシェルの背中を優しく撫でた。

私の体のこと、特にあの事件以降の詳しい状況は、ミッシェルや他の人たちには話していない。

この学校で知っているのは、アレス、テト、ムニン、そしてシュー先生だけだ。

あとは、そう……。

「あら、もう起き上がって大丈夫なの?」

私たちのすぐ隣に、涼やかな声が響いた。私とミッシェルは、同時にそちらへと視線を向けた。

そこに立っていたのは、見覚えのある少女。夜空のような深い青色の髪が腰まで流れ、その腰には、見る者を凍てつかせるような魔剣『サファイア』が下げられている。

氷結の魔道士、カレンが、紫色の瞳を静かに瞬かせながら、そこにいた。

ミッシェルは、その突然の登場に目を丸くして固まっている。その隣で、私はカレンに声をかけた。

「カレン? 久しぶりだね」

「ええ」

カレンは、あの事件をきっかけに、このエアトート魔法学校に入学したとアレスから聞いていた。

どうやら、父様が彼女の実力を見込み、直接入学を勧めたらしい。

「氷結の魔道士」と称されるほどの卓越した実力を持つ彼女は、入学試験を全て完璧にこなし、瞬く間に最上位クラスである「紫雫のクラス」へと配属されたのだ。