「あの、星の涙って?」
俺は、初めて聞くその雫の名に疑問を投げかけた。魔法書でも、口伝でも、星の涙という単語は一度も耳にしたことがない。
ブラッドさんが言う「膨大な魔力を秘めた雫」という表現は、それがどれほど価値のあるものかを示していた。だからこそエアの末裔たちは、それを守るために姿を隠したのだろう。
「星の涙は、知恵の女神エアが内に秘めていた雫とも言われており、実際それを使ってエアとトトたちはこの世界を作った」
「えっ?! じゃあその星の涙の魔力を使って、エアたちはこの世界を作ったって言うんですか?!」
俺の声は上ずった。
「ああ、そうだ」
この世界を作り上げてしまうほどの魔力――その規模は、俺の想像力を遥かに超えていた。
「そしてその星の涙を、オフィーリアは体内に宿していたんだ」
「っ!」
俺は息を呑んだ。そんな世界を創るほどの膨大な魔力を秘めた雫を、たった一人の人間の体で維持できるはずがない! そんな負荷に耐えられるはずもなく、体が保たずに死んでしまうのではないか。
ブラッドさんは、俺の危惧を察したように続けた。
「体内に宿していたと言っても、星の涙の魔力はもうほとんど残っていなかった。この世界を作る時に、内に秘めていた魔力の大半を使ってしまったからな。だが星の涙は、エアが最後に願った願いを叶えるために、主として器に選んだ者の魔力を微力ながらに吸収していっていた」
ブラッドさんはそこで言葉を区切ると、悔しそうに唇を噛みしめ、右拳に強く力を込めた。その姿に俺が首を傾げた時、彼は自分を落ち着かせるために深く深呼吸をして重い口を開いた。
「エアが最後に願った願いというのが、『この世界のトトを探して欲しい』というものだ。そしてそのトトを選ぶ権利を持っていたのが、星の涙を体内に宿していた彼女――『この世界のエア』だったんだ」
「ちょ、ちょっと待ってください! この世界のトトを探して欲しい?! だって、トトはあっちの世界で闇の存在を封じ込めているんじゃないですか? それに、それを決める権利を持っているのがこの世界のエアって……?」
「星の涙を体内に宿した者は、必然的に『この世界のエア』と呼ばれるようになる。そして、星の涙だけでは真のトトを探し出せない。だからその選定の権利を主に委ね、主が『この人がトトです』と認めてしまえば、誰でも簡単に『この世界のトト』として認められるってわけだ」
テトはそれを聞くと、面白がるように、しかし非常に冷静な指摘を投げかけた。
「ちょっと物騒な話ね。誰でも簡単にこの世界のトトになれるなんて知ったら、その星の涙を巡って争いが起こってもおかしくなかったんじゃないのかしら?」
「……っ」
テトの鋭い言葉にブラッドさんの表情が深く歪んだ。その様子を見逃さず何かを確信したテトは目を細めると、さらに言葉を続けた。
「これはあくまで私の推測なんだけど、その星の涙が微力ながらに魔力を吸収していたっていうなら、それはオフィーリアの生命力そのものを蝕んでいたんじゃないかしら?」
「っ!」
その推測に、ブラッドさんは目を丸くしてテトへと視線を動かす。彼の動揺は、その推測が真実であることを示唆していた。
テトは淡々と、残酷な論理を突きつける。
「星の涙の残された魔力は少なくても、『トトを探す』という願いを叶えるためだけに常に魔力を求めていた。そしてその補給源が、器であるオフィーリアの魔力ではなく、彼女の寿命や活力だったとしたら?」
「や、辞めてください! テト!」
するとテトの話を黙って聞いていたカレンが、初めて強い感情を露わにして声を上げた。その予期せぬ行動に、俺たちは驚く。
「あら、何をやめろって言うのかしら? 私は気になったことを彼に問いかけただけなんだけど? それがいけないって言うのかしら?」
「そ、それは……」
カレンは固く力を込めていた拳を解くと、苦しそうにテトから目を逸した。そんなカレンを見て、テトは軽く息を吐き、ブラッドさんへと視線を戻した。
「どうなのかしら?」
ブラッドさんは辛そうな表情を浮かべ、喉の奥から絞り出すように答えた。
俺は、初めて聞くその雫の名に疑問を投げかけた。魔法書でも、口伝でも、星の涙という単語は一度も耳にしたことがない。
ブラッドさんが言う「膨大な魔力を秘めた雫」という表現は、それがどれほど価値のあるものかを示していた。だからこそエアの末裔たちは、それを守るために姿を隠したのだろう。
「星の涙は、知恵の女神エアが内に秘めていた雫とも言われており、実際それを使ってエアとトトたちはこの世界を作った」
「えっ?! じゃあその星の涙の魔力を使って、エアたちはこの世界を作ったって言うんですか?!」
俺の声は上ずった。
「ああ、そうだ」
この世界を作り上げてしまうほどの魔力――その規模は、俺の想像力を遥かに超えていた。
「そしてその星の涙を、オフィーリアは体内に宿していたんだ」
「っ!」
俺は息を呑んだ。そんな世界を創るほどの膨大な魔力を秘めた雫を、たった一人の人間の体で維持できるはずがない! そんな負荷に耐えられるはずもなく、体が保たずに死んでしまうのではないか。
ブラッドさんは、俺の危惧を察したように続けた。
「体内に宿していたと言っても、星の涙の魔力はもうほとんど残っていなかった。この世界を作る時に、内に秘めていた魔力の大半を使ってしまったからな。だが星の涙は、エアが最後に願った願いを叶えるために、主として器に選んだ者の魔力を微力ながらに吸収していっていた」
ブラッドさんはそこで言葉を区切ると、悔しそうに唇を噛みしめ、右拳に強く力を込めた。その姿に俺が首を傾げた時、彼は自分を落ち着かせるために深く深呼吸をして重い口を開いた。
「エアが最後に願った願いというのが、『この世界のトトを探して欲しい』というものだ。そしてそのトトを選ぶ権利を持っていたのが、星の涙を体内に宿していた彼女――『この世界のエア』だったんだ」
「ちょ、ちょっと待ってください! この世界のトトを探して欲しい?! だって、トトはあっちの世界で闇の存在を封じ込めているんじゃないですか? それに、それを決める権利を持っているのがこの世界のエアって……?」
「星の涙を体内に宿した者は、必然的に『この世界のエア』と呼ばれるようになる。そして、星の涙だけでは真のトトを探し出せない。だからその選定の権利を主に委ね、主が『この人がトトです』と認めてしまえば、誰でも簡単に『この世界のトト』として認められるってわけだ」
テトはそれを聞くと、面白がるように、しかし非常に冷静な指摘を投げかけた。
「ちょっと物騒な話ね。誰でも簡単にこの世界のトトになれるなんて知ったら、その星の涙を巡って争いが起こってもおかしくなかったんじゃないのかしら?」
「……っ」
テトの鋭い言葉にブラッドさんの表情が深く歪んだ。その様子を見逃さず何かを確信したテトは目を細めると、さらに言葉を続けた。
「これはあくまで私の推測なんだけど、その星の涙が微力ながらに魔力を吸収していたっていうなら、それはオフィーリアの生命力そのものを蝕んでいたんじゃないかしら?」
「っ!」
その推測に、ブラッドさんは目を丸くしてテトへと視線を動かす。彼の動揺は、その推測が真実であることを示唆していた。
テトは淡々と、残酷な論理を突きつける。
「星の涙の残された魔力は少なくても、『トトを探す』という願いを叶えるためだけに常に魔力を求めていた。そしてその補給源が、器であるオフィーリアの魔力ではなく、彼女の寿命や活力だったとしたら?」
「や、辞めてください! テト!」
するとテトの話を黙って聞いていたカレンが、初めて強い感情を露わにして声を上げた。その予期せぬ行動に、俺たちは驚く。
「あら、何をやめろって言うのかしら? 私は気になったことを彼に問いかけただけなんだけど? それがいけないって言うのかしら?」
「そ、それは……」
カレンは固く力を込めていた拳を解くと、苦しそうにテトから目を逸した。そんなカレンを見て、テトは軽く息を吐き、ブラッドさんへと視線を戻した。
「どうなのかしら?」
ブラッドさんは辛そうな表情を浮かべ、喉の奥から絞り出すように答えた。


