ヴェルト・マギーア ソフィアと竜の島

俺は、頭の中で繋がった恐ろしい仮説を確かめるように、ブラッドさんに問いかけた。

「あの、ブラッドさんはマナ中毒について知っていますか?」

ブラッドさんは、俺の質問を待っていたかのように静かに答えた。

「もちろん、知っているさ。雫を持たない状態でマナを吸ったら、マナを魔力へと変化させることが出来ず、体はマナの毒によって蝕まされていく」

やはり、あのマナ中毒は黒い粒子が原因で起こる現象そのものだったのだ。

「それはアムールたちが暮らしていた前の世界では、『難病』として扱われていた。治療法もなく、発症源も不明だった。しかしトトが星屑を使って『雫』を作り出し、それを俺たち全種族に与えたことによって、マナによって苦しむ人々は居なくなった」

トトが創造した雫――俺たちの体内にある魔力を抱える雫が「猛毒」となったマナへの対抗策だったなんて……。

ブラッドさんは一瞬、遠い目をした後、冷たい事実を付け加えた。

「でも、その猛毒のマナを生み出していた張本人は、未だあの破滅した世界で眠り続けている」

「そんな……」

俺は言葉を失った。あの恐ろしいマナの毒の発生源が、今もなお存在しているというのか。

「それを倒すためにも、私たち守護者は早く集まらないといけないんです。あれを抑えているトトだって、きっと限界のはずです……」

レーツェルさんの言葉に、俺は最も気になっていたことを問いかけた。

「あの、トトは生きているんですか?」  

俺のその問いかけに、レーツェルさんはすぐに答えず、確認を取るように一瞬ブラッドさんへと視線を送った。

ブラッドさんは穏やかに微笑むと、軽く頷いてみせた。

「はい……トトは生きています。あの世界でただ一人、闇の存在を抑え込んでいます。この世界を作る時に差し出した『対価』を支払いながらも」

「……対価って?」

俺たちが生かされているこの世界が、誰かの犠牲の上に成り立っているという事実に胸が締め付けられた。

ブラッドさんは、その重すぎる真実を淡々とした口調で明かした。

「対価とはこの世界を作る時に……いや、『世界の魔法』を使う時にトトとエアが差し出した代償のことだ。この世界を造り出すと同時に、知恵の女神エアは寿命を、そして知識の神トトは心と目を差し出した」

「じゃあ……トトは目が見えていないんじゃ!」  

俺は思わず立ち上がりそうになった。五感の一つ、最も重要な視覚を失った状態で、トトはたった一人、世界の破滅を招いた闇の存在を、何百年も抑え込んでいるというのか?!

ブラッドさんは、俺たちの動揺と衝撃を静かに見つめながら言葉を締めくくった。

「知恵の女神エア、知識の神トトなんて呼ばれているけど、二人は人間だ。女神でも神様でも何でもない。そんな二人が世界を救うために、自分たちの最も大切なものを対価として支払って、この世界を作ってくれた」

彼の声は静かだが、揺るぎない尊敬に満ちていた。

「俺たちは当然そのことに感謝しないといけないし、その真実を知っておくべきでもあるんだ」

「……っ」  

ブラッドさんの言葉に、俺たちは皆、目を下へと向けた。感謝と歴史の重圧と、そして自分たちが今立っている足場が、どれほど大きな犠牲の上に成り立っているのかという途方もない事実に、言葉を失っていた。