ヴェルト・マギーア ソフィアと竜の島

「まず、本当の話はこうだ」  

ブラッドさんは、まるで古い巻物を読み解くかのように重々しく語り始めた。

「領地を巡って引き起こされた九種族戦争によって、世界は破滅へと歩んでいった。その結果、世界は人々が住める場所ではなくなってしまった。それを見かねた知恵の女神エアと、知識の神トトはある魔法を使って、この世界を作り変えることにした」

「……ある魔法?」

俺は全身の毛が逆立つような感覚を覚えた。その「ある魔法」こそが、今、俺たちが暮らしている世界の根源に関わるのだろう。

「その魔法が『世界の魔法(ヴェルト・マギーア)』なのね」  

テトはすべてを見通したような低い声で、核心を突いた。その言葉に隣に座るソフィアの肩がビクッと大きく跳ね上がった。

ソフィアは青い顔を浮かべると、体全体を微かに震わせ始めた。そんなソフィアに気づいた俺は、直ぐに彼女の冷たくなった手を握った。

「黒猫。君の言うとおりだ。エアとトトは世界の魔法を使って、今のこの世界を、文字通り創り上げたんだ」

「そ、それじゃあ、ブラッドさんがヨルンと話していた『あの世界』と言うのは、エクレールさんたちが住んでいた、戦争で破滅した前の世界のことなんですか?」  

俺の問いかけに、ブラッドさんは軽く頷く。その頷きは、途方もない歴史の隔たりを認めるものだった。

「そもそも、何で領地を巡って九種族戦争なんてものが引き起こされたと思う?」

「それは……」  

答えようとする俺の言葉を遮るように、ブラッドさんは目を鋭く細めその原因を断言した。

「黒い粒子。それが原因だ」  

俺たちはその言葉に目を丸くし、ブラッドさんから一瞬たりとも目を離さず、じっと見つめた。

「数日前にもこの島に黒い粒子が押し寄せてきた。だがそれは、エクレールとアレスのおかげでなんとか無事に浄化することが出来たから、被害は最小限で抑えることが出来た。しかしヨルンは、あれを時空の割れ目の側で見つけたと言っていた。その言葉の本当の意味が分かるか?」

俺は喉の奥で唾を飲み込んだ。

「それは……時空の割れ目によって、あの黒い粒子が再びこちらの世界へ進行して来るってことですか?」

「ああ、その通りだ。アルたちが暮らしていた世界は、あの黒い粒子によって少しずつ破滅へと追い込まれた。そして黒い粒子は、精霊たちを喰らい尽くすことによって、猛毒のマナと変化し、人々の体を内側から蝕んでいった」  

その説明を聞いて、俺は一ヶ月前のマナ中毒の光景を思い出した。

雫が抜かれたことによって、マナを魔力へと変化させることが出来ず、マナは徐々に人間の体を蝕んでいって、七日目には肉体は原型を留めることなく、砂と化してしまった。

(黒い粒子が、あのマナ中毒と同じような現象を引き起こしたのか――)