ヴェルト・マギーア ソフィアと竜の島

テトが放った鋭い推測に、ブラッドさんは獰猛な獣のように左目を鋭く細めた。

「戦争を終わらせたのは、『エアとトト、そして守護者たち』だ。彼女が独力で成し遂げたものじゃない。そんな大それた偉業を、あの身勝手な女が一人で出来るはずがないからな」  

ブラッドの口から吐き出された『あの身勝手な女』という、女神への露骨な呪詛。その言葉にテト金色の瞳は鋭く細まった。

「その口振りだと、あなたはそのエア本人と直接言葉を交わした経験がある、と言っているように思えるんだけど? エアは英知の具現、知恵の女神として、私たちに魔法という文明の礎を与えてくれた。だから彼女の存在は、この世界の人たちにとって偉大にして崇拝するに値する存在なのよ? それだと言うのに、あなたはまるでエアのことを嫌っているようね」

「ああ、大嫌い(・・・)だな」  

ブラッドさんはテトの言葉に、一切の躊躇なく魂の底からの感情を込めて言い捨てた。

その激しい嫌悪を前にして、さすがのテトでも驚愕に一瞬言葉を失い目を見開いた。そしてブラッドさんの側に立つエクレールさんも、その発言に瞳を丸くしている。

「……話を戻そうか」  

ブラッドさんは短く息を吐くと、冷ややかな表情で再び話し始めた。

「魔剣は確かにエアの恩恵を受けている。その力は、一振り一振りが特別な個性だ。例えばエクレールだったら、触れたものを純粋な形に戻す、黒い粒子を浄化する力を持っている。これは彼女固有の能力であり、エクレール以外の者は誰も発揮できない絶対的な力だ」  

エクレールさんから、隣のサファイアへと視線を動かしブラッドさんは言葉を続けた。

「サファイアだったら、彼女の体内に宿る特有の魔力である氷結の力を使うことが出来る。しかし、サファイアの氷結の力を使いこなすには、非常に厳しい条件があってな」

俺はゴクリと唾を飲み込み問い返した。

「条件とは?」

ブラッドさんは、何かを試すような挑発的な笑みを浮かべる。

「サファイアは、かつて極北の大地を支配した氷国のお姫様なんだ。氷国は名の通り、常時氷点下の極寒の地だが、サファイアの氷結の力を完全に操ることが出来るのは、その氷国出身の者か、あるいはサファイアと同じ王家出身の者、つまり氷国の王家の血筋を引く者だけなんだ。それ以外の者が主になろうとしても、氷結の力を巧みに操ることは出来ない」

彼は、その力の代償を冷酷に語った。

「過去にサファイアを力ずくで我が物にしようとしてきた連中は、彼女の制御不能な氷結の力によって、瞬く間に氷の中に閉じ込められ、永遠の眠りにつく凍死という末路を辿る」  

その残酷な逸話を聞き、俺の背筋には芯まで凍えるような悪寒が走った。

(だとすれば、カレンがサファイアの主であるということは……)