ヴェルト・マギーア ソフィアと竜の島

「ブラッドはソフィアちゃんを使って、いったい何をしようとしているのですか?」

「っ!」  

鋭すぎるその直球の問いかけに、俺とレーツェルは目を丸くした。驚いたというよりも先に、「やっぱり」という納得が胸をよぎる。彼女の勘、そして洞察力は三百年経っても変わらず鋭い。

どうやらエクレールの中では既に、ブラッドがソフィアの持つ魔人の力を使って、何かを企んでいるのではないかという疑念が、確信に変わりつつあるようだ。

「わたくしから見ても、彼は確かに『この世界のトト』様なのです。ですが、完璧に信じられるかどうかと聞かれれば……少し悩むところなのです」  

彼女はニコリと笑いながら、淡々と極めて重要な懸念を口にする。その変わらない軽やかな調子が逆に恐ろしく、俺の頬に冷たい汗が流れ落ちる。

今ここで彼女に、俺たちがやろうとしている事の全てを知られるわけにはいかない。

すると、俺の隣に控えていたレーツェルが、一歩強く前に踏み出すとそのままエクレールの前まで歩み寄った。

「レーツェル?」

「エクレール。確かにあなたから見たら、ブラッドはまだ信用するに値しない存在かもしれません」  

レーツェルは真剣な眼差しでエクレールを見つめる。

「ですがここに居るアムール様、そしてサファイアとクリエイトは、ブラッドを信じているんです」  

その断言にエクレールは目を瞬かせると、確認を取るように腕を組んで立っているサファイアへと視線を動かした。

その視線に気づいたサファイアは、組んでいた腕を大きく解きながら静かに口を開く。

「レーツェルの言う通りだ。私もあいつを信じている。あいつなら守護者全員を集めて、エアと守護者の約束を必ず果たしてくれると」

「……そう、なのですか。確かにアルやレーツェルちゃんがそこまで言うのであれば、わたくしも信じたいとは思うのです。しかし……」  

エクレールは複雑な感情が入り混じった表情を浮かべ、言葉を濁した。だがすぐに決断を下す。

「……分かりました。一先ず、彼の事は信じることにするのです」

「エクレール?」

エクレールはそう言って、踵を返し賑やかな村のある方へと戻り始めた。

「彼を信じるにしても、信じないにしても、わたくしたちの願いは一緒です。早くみんなで集まって、約束を果たすのです」

「……ああ」  

俺がその言葉に力強く頷いた、次の瞬間。

なぜかエクレールは再び踵を返し、そのままレーツェルの側へと寄った。