ヴェルト・マギーア ソフィアと竜の島

私は、溢れる涙と震える声で叫んだ。

「私だって……先生が死んだら悲しいです!」  

先生はオフィーリア様から引き継いだ重すぎる使命をやり遂げるために、命だって平気で張る可能性がある。あの真剣な目、悲しみに満ちた横顔を見てそう確信した。

なら、その無謀な行動を、一体誰が止めると言うの? だって先生の側には……誰一人として、彼の命を最優先に考えられる人間が居ないじゃない! 私はそう思い絶望した。

「私じゃ……駄目だってことは分かっています」  

先生は私の気持ちになんて、とっくに気づいているはずだ。そういうことに関しては、意外と先生は鋭かったりする。気づいていながら、私を遠ざけたのは、私の命を案じてか、それとも――

私は、岬の先にたった一人座りながら、涙を流していた先生の悲しい姿を思い出す。

「……先生を永遠に苦しめているのは……彼女なんですよね?」  

オフィーリア様という存在が、先生の心を鎖のように縛り付けて苦しめているんだ。彼女という過去の存在が先生の中で色濃く残りすぎてしまっているせいで、先生は永遠にその呪縛から開放されないでいるんだ。

「……なければ」  

嫉妬と、先生を救いたいという身勝手な欲望が混ざり合い、私の理性は崩壊した。私は拳に力を込め、喉の奥から絞り出すように、夜の闇に向かって叫んだ。

「あなたさえ! 居なければ――!」  

そこで私は、ハッとした。今、自分がこの先なんの言葉を口にしようとしているのかが、明確に分かってしまったからだ。

「……私」  

なんて酷い女なんだろう。  

その瞬間、私の体から一気に力が抜けその場に膝から崩れて座り込んだ。森の冷たい土が、熱を持った私の頬に当たった。

先生にとってオフィーリア様がどんなに大切な存在だったのかなんて、彼の顔を見ればすぐに分かったことなのに……。

先生がオフィーリア様のために頑張っているのだって、彼女を今も心から愛しているからなんだ。

それだと言うのに私は……自分の身勝手な感情で、会ったこともない、既に命を失った人に酷い言葉を向けるなんて。

「……ごめんなさい」  

私は……先生の側にいる資格なんてない。守護者失格だ。

そんな私の体を、白銀の髪を持った女性が背後から優しく、そして温かく抱きしめていたことに、私は気が付かなかった。