先生から聞かされた話は、あまりにも壮絶な物語だった。

オフィーリア様は『エアの末裔』と呼ばれる、最後の生き残り。エアの雫であった【星の涙】を守りながら、魔剣であるレーツェルさんと共に、守護者を集めるという途方もない使命の旅をしていた。

その孤独な旅の途中で、オフィーリア様は先生と出会い、そしてお互いに深く恋に落ちた。

「……っ」  

オフィーリア様の事を話していた時の先生は、遠い過去を懐かしむような、しかし堪え難いほど辛い表情を浮かべていた。その横顔には、深い愛情と永遠に癒えない傷跡が刻まれているようだった。

「オフィーリアは死んだ、俺のせいで」  

その言葉を聞いた時、先生は今にも泣き出しそうな顔を浮かべていた。彼は愛する人を守りきれなかったことを、誰よりも深く、自分自身を責めながら後悔しているように見えた。私は胸が締め付けられ、かけるべき言葉が見つからなかった。

「だから俺は彼女がやり残したことを引き継いだんだ」  

先生がどれほど、そのオフィーリア様という女性を愛していたのかを、私は知ってしまった。

こんなに苦しい気持ちになるなら、彼女の話なんて聞かなければ良かったとすら思った。先生の心の中に、どれほど偉大な女性がいたのかを知って、私は絶望的な無力感に襲われたのだ。

でも……今の私は、もう以前の私ではない。

私はもう、先生の足手まといじゃない。オフィーリア様ではなく、今の私なら先生の側で力になって一緒に歩んでいくことができるんだ。

そう思って、この決意を先生に伝えようと口を開きかけたその瞬間だった。

「カレン。悪いが……お前をこの旅に同行させるつもりはない」  

私はその言葉に目を丸くした。そして同時に、全身が冷たくなり激しく震えた。

どうして先生がそんなことを言うのか、理解できなかった。

「カレン。俺からお前に一つだけ命令しておく」  

先生はもう二度と、氷結の力を使うなと私に言った。その力は私の命を削るもので、発動し続ければ私の命がないと。

でも……そんなこと私には関係なかった!

私は先生の側で戦うために、ずっとサファイアに認められたくて、先生の力になりたくて、どんな危険も恐れずに頑張ってきたのに!

先生のそのたった一言で、私のこれまでの努力と存在の全てを、冷たく拒否されてしまったような絶望的な感覚に陥った。

「俺はお前が死んだら……悲しいぞ」  

先生のあの優しい、けれど突き放すような言葉を思い出して、私は森の中を歩く足を止めた。そして堰を切ったように涙がボロボロと頬をつたい始めた。