「他人の口から色々と知ってしまったとしても、そのおかげで今まで見えなかった父親の立場や苦悩も見えるようになったんだし、あなただってこの試練を乗り越えて少しは成長する事ができたのよ。だから、ああだから、こうだからと理由をつけて立ち止まって悩むんじゃなくて、一度あなたの頭の中にある全てを空っぽにして考えてみなさい。その中で一番最初に出てきた答えが、あなたの偽りのない本当の気持ちなんじゃないの?」
テトは、月の光にも負けない透き通った黄金の瞳で僕を見つめながら、断言するように言った。その言葉には迷いが一切なく、僕の心に深く突き刺さった。まるで絡まりきった思考の鎖を、一瞬で断ち切られたような感覚だ。
僕は軽く目を見張り、テトの言葉を咀嚼した。そして彼女の言う通り、僕を縛り付けていた親父への複雑な感情や、自責の念といった、重い悩みの全てを頭から追い出し、目を閉じた。
夜風が耳元を通り過ぎる音だけが聞こえる中、僕は闇の中で静かに自分の心の底に問いかけた。
――お前にとって、父親はどんな存在だ? そして、今、会いたいか?
――答えは、一つしかなかった。
会いたい。ただ、それだけだ。理由や理屈ではなく、感情がそう叫んでいた。
そしてたった一つの答えが出た時、僕はそっと目を開けた。テトの温かい手のひらからひらりと飛び降り、体が淡い光に包まれ、元の狼人族の姿に戻って、静かに彼女の隣に腰を下ろした。
「答えは、ちゃんと出たようね?」
テトは優しげに口角を上げ、その黄金の瞳をさらに軽く細めると、僕の顔を覗き込んできた。その表情は、僕がどの答えを選ぶか最初から知っていたかのように穏やかだ。
僕は迷いが晴れたことで生まれた、清々しい笑みを浮かべ深く頷いてみせた。もう、親父を避ける必要はない。
それを確認したテトもニッコリと満面の笑みを浮かべると、視線を真っ直ぐ前、広がる夜景へと向けた。
「ほんとうに、手のかかる、困った後輩なんだから」
そう言って彼女は、どこか安堵したように心から嬉しそうに笑っていた。
テトが心から満足したような、あんな優しい笑顔を見せるのを初めて見た俺は、一瞬、その月明かりに照らされた輝く横顔に見惚れてしまった。普段の彼女は、どちらかというとキリッとしていて、感情を表に出さないことが多いからだ。
テトは昔からよく僕の面倒を見てくれた。
大切な母上を失ったショックで心を閉ざし、誰も信じられなかった状態で使い魔の街に辿り着いた時、初めて優しく声を掛けてくれたのも、このテトだった。
「あなた……そんなに絶望したような、悲しい顔をして、一体どうしたのかしら?」
あの時の僕は、瞳に世界の終わりのような絶望の色を宿し全てを拒絶していた。
でもそんな荒れていた僕に対し、テトはただ見捨てることなく、使い魔という仕事の厳しさとやりがい、そして生きる道を教えてくれた。
そこから、煩雑な使い魔になるまでの手続きや、魔法の基本的な習得だって、テトは忙しい合間を縫って根気よく見てくれた。彼女がいなければ、今の僕はここにいないだろう。
テトは、月の光にも負けない透き通った黄金の瞳で僕を見つめながら、断言するように言った。その言葉には迷いが一切なく、僕の心に深く突き刺さった。まるで絡まりきった思考の鎖を、一瞬で断ち切られたような感覚だ。
僕は軽く目を見張り、テトの言葉を咀嚼した。そして彼女の言う通り、僕を縛り付けていた親父への複雑な感情や、自責の念といった、重い悩みの全てを頭から追い出し、目を閉じた。
夜風が耳元を通り過ぎる音だけが聞こえる中、僕は闇の中で静かに自分の心の底に問いかけた。
――お前にとって、父親はどんな存在だ? そして、今、会いたいか?
――答えは、一つしかなかった。
会いたい。ただ、それだけだ。理由や理屈ではなく、感情がそう叫んでいた。
そしてたった一つの答えが出た時、僕はそっと目を開けた。テトの温かい手のひらからひらりと飛び降り、体が淡い光に包まれ、元の狼人族の姿に戻って、静かに彼女の隣に腰を下ろした。
「答えは、ちゃんと出たようね?」
テトは優しげに口角を上げ、その黄金の瞳をさらに軽く細めると、僕の顔を覗き込んできた。その表情は、僕がどの答えを選ぶか最初から知っていたかのように穏やかだ。
僕は迷いが晴れたことで生まれた、清々しい笑みを浮かべ深く頷いてみせた。もう、親父を避ける必要はない。
それを確認したテトもニッコリと満面の笑みを浮かべると、視線を真っ直ぐ前、広がる夜景へと向けた。
「ほんとうに、手のかかる、困った後輩なんだから」
そう言って彼女は、どこか安堵したように心から嬉しそうに笑っていた。
テトが心から満足したような、あんな優しい笑顔を見せるのを初めて見た俺は、一瞬、その月明かりに照らされた輝く横顔に見惚れてしまった。普段の彼女は、どちらかというとキリッとしていて、感情を表に出さないことが多いからだ。
テトは昔からよく僕の面倒を見てくれた。
大切な母上を失ったショックで心を閉ざし、誰も信じられなかった状態で使い魔の街に辿り着いた時、初めて優しく声を掛けてくれたのも、このテトだった。
「あなた……そんなに絶望したような、悲しい顔をして、一体どうしたのかしら?」
あの時の僕は、瞳に世界の終わりのような絶望の色を宿し全てを拒絶していた。
でもそんな荒れていた僕に対し、テトはただ見捨てることなく、使い魔という仕事の厳しさとやりがい、そして生きる道を教えてくれた。
そこから、煩雑な使い魔になるまでの手続きや、魔法の基本的な習得だって、テトは忙しい合間を縫って根気よく見てくれた。彼女がいなければ、今の僕はここにいないだろう。


