「自分の命を捨てるようなことは、許さない。サファイアにとってお前は、ようやく出来た唯一無二の存在なんだ。彼女のためにも、そんなことを言うな!」
「……っ」
カレンはショックと混乱、そして悲しみに耐えきれず、目をギュッと瞑ると顔を伏せた。肩が小刻みに震えている。そんな彼女の頭に、俺はそっと手を乗せて優しく髪を撫でた。
「……先生?」
カレンは戸惑ったように顔を上げた。その濡れた瞳は、俺の表情を探っていた。
俺はできるだけ穏やかな声で、心の底からの言葉を紡いだ。
「カレン。俺はお前が死んだら……悲しいぞ」
その言葉が、彼女の頑なだった心を崩した。カレンは声を押し殺すこともできず、ボロボロと大粒の涙を零した。その涙は氷結の力とは真逆の温かい感情の雫だった。
「サファイアのためにも、俺のためにも、命は大切にしてくれ」
「……はい!」
カレンは嗚咽を堪えながら、力強く頷いた。
そう……出来ることなら、カレンにはこのまま生きて幸せになって欲しいんだ。彼女の純粋さに、俺はオフィーリアの面影を見てしまう。
それにカレンには後に、辛い選択をさせることになる。それがこの旅の避けられない結末の一つだ。
彼女がどちらの選択をしても、俺はそれを受け入れるつもりだ。
俺は声を押し殺して泣く彼女を、優しく見つめながら泣き止むまで側に居た。
カレンが涙を拭い、村へと帰って行くのを見届けた俺は、再び夜の海へと視線を動かした。
波の音が、先ほどの激しい感情のやり取りを洗い流すようだ。
「お前が死んだら……悲しいぞ、か。まったく……」
俺は自嘲気味に呟いた。
人のこと言えないくせにな。俺だって、オフィーリアの使命を果たすためなら、自分の命など惜しくないと思っている。
そんなことを思い、俺も村へ戻ろうとして岬に背を向けたその時だった。
「ブラッド」
「……っ」
その声を聞いた瞬間、心臓が大きく跳ねた。まるで電撃が走ったように、全身の感覚が研ぎ澄まされる。
心臓の心拍数も上がっていき、体が徐々に熱くなっていく。この異常な感覚は、彼女が側にいる時にしか起こらないものだ。
俺は、何かを信じたい気持ちと、理性が否定する現実に挟まれながら、ゆっくりと後ろを振り返った。
そしてそこには――
「……あれ?」
誰の存在もなかった。
一瞬だけ、オフィーリアがそこに立っている気がしたんだけど、どうやらただの気のせいだったようだ。
「……そうだよな。そんな都合よく、お前が居るはずないもんな」
俺はそう吐き捨てるように言い、現実を受け入れて村へ向かって歩き出した。
そんな俺の後ろ姿を、彼女が涙を流しながら見ていると知らずに。
「……っ」
カレンはショックと混乱、そして悲しみに耐えきれず、目をギュッと瞑ると顔を伏せた。肩が小刻みに震えている。そんな彼女の頭に、俺はそっと手を乗せて優しく髪を撫でた。
「……先生?」
カレンは戸惑ったように顔を上げた。その濡れた瞳は、俺の表情を探っていた。
俺はできるだけ穏やかな声で、心の底からの言葉を紡いだ。
「カレン。俺はお前が死んだら……悲しいぞ」
その言葉が、彼女の頑なだった心を崩した。カレンは声を押し殺すこともできず、ボロボロと大粒の涙を零した。その涙は氷結の力とは真逆の温かい感情の雫だった。
「サファイアのためにも、俺のためにも、命は大切にしてくれ」
「……はい!」
カレンは嗚咽を堪えながら、力強く頷いた。
そう……出来ることなら、カレンにはこのまま生きて幸せになって欲しいんだ。彼女の純粋さに、俺はオフィーリアの面影を見てしまう。
それにカレンには後に、辛い選択をさせることになる。それがこの旅の避けられない結末の一つだ。
彼女がどちらの選択をしても、俺はそれを受け入れるつもりだ。
俺は声を押し殺して泣く彼女を、優しく見つめながら泣き止むまで側に居た。
カレンが涙を拭い、村へと帰って行くのを見届けた俺は、再び夜の海へと視線を動かした。
波の音が、先ほどの激しい感情のやり取りを洗い流すようだ。
「お前が死んだら……悲しいぞ、か。まったく……」
俺は自嘲気味に呟いた。
人のこと言えないくせにな。俺だって、オフィーリアの使命を果たすためなら、自分の命など惜しくないと思っている。
そんなことを思い、俺も村へ戻ろうとして岬に背を向けたその時だった。
「ブラッド」
「……っ」
その声を聞いた瞬間、心臓が大きく跳ねた。まるで電撃が走ったように、全身の感覚が研ぎ澄まされる。
心臓の心拍数も上がっていき、体が徐々に熱くなっていく。この異常な感覚は、彼女が側にいる時にしか起こらないものだ。
俺は、何かを信じたい気持ちと、理性が否定する現実に挟まれながら、ゆっくりと後ろを振り返った。
そしてそこには――
「……あれ?」
誰の存在もなかった。
一瞬だけ、オフィーリアがそこに立っている気がしたんだけど、どうやらただの気のせいだったようだ。
「……そうだよな。そんな都合よく、お前が居るはずないもんな」
俺はそう吐き捨てるように言い、現実を受け入れて村へ向かって歩き出した。
そんな俺の後ろ姿を、彼女が涙を流しながら見ていると知らずに。


