俺は硬く翡翠石を握りしめたまま、月明かりを浴びて煌めく海面を睨みつけた。

「もう少しでお前に会えると思ったら、嬉しい半面……今の俺がやっている事は、本当に正しいのかって思うんだ」  

声を震わせながら、俺は胸の奥で渦巻く疑念を吐き出した。こんな弱気な言葉――アルやレーツェルには、決して言えない。

二人は俺の計画を信じて、命の危険も顧みずここまで着いてきてくれた。彼らの揺るぎない信頼を裏切るような言葉は、喉の奥に押しとどめなければならない。

でも、やはりどこかで不安の種が燻り続けていた。

本当に俺の行いは正しいのか? 

本当にもう一度、オフィーリアに触れることができるのか?

確約のない希望を追いかける恐怖。不安でどうしようもなかった夜は、二人が眠った後たった一人、誰にも見られぬ場所で泣き崩れたことだってあった。

「でもそのたびに……お前がくれたこの守護石で、元気になれたんだ。この冷たい石が、まるで温もりを帯びて、お前が「頑張れ」って言ってくれているような気がしてさ」  

そう口にした瞬間、抑えきれなかった一滴が左の目尻から静かに零れ落ちた。銀色の月光の下で、その一筋の雫が頬を伝う。

「オフィーリア……お前に会いたい……よ」  

小さく、風にかき消されそうなほどか細く呟いた、その時だった。

背後から遠慮がちな、聞き慣れた声が届く。

「先生?」

「っ!」  

直ぐ後ろにカレンがいることに気づき、俺は反射的に声を上げた。驚きで息を詰まらせ、慌てて手の甲で目元を拭い、一瞬で表情を整えてから、彼女の方へと勢いよく振り返った。

「ど、どうしたカレン? こんなところまで一人で来て……何かあったのか?」

月明かりの中に立つカレンは、少し不安そうな面持ちで、右手に持った小さなランタンを揺らしていた。

「その……」  

カレンは頬をわずかに赤く染めると、岩に座る俺のすぐ隣のスペースに、静かに腰を下ろした。そのランタンの光は、二人の足元を小さく照らす。

「先生に……聞きたかったことがあるんです」

「俺に?」  

彼女の真剣な言葉に、俺は怪訝に思い首を傾げた。

そしてカレンは俯き加減のまま、意を決したように静かに口を開いた。

「先生が以前、少しだけ話してくれた……あの「彼女」と言う人は、どんな人だったんですか?」

「えっ……」  

一瞬、言葉を失う。

そうだ、氷結魔法を彼女に教えている中で、カレンにオフィーリアのことをごくわずか話したことがあった。彼女は、ずっとそれを気に留めていたのだろうか。

「知りたいのか? 彼女について」

「……はい」  

カレンは揺れる瞳で、小さくはっきりと頷いた。その姿に俺は一瞬、どう答えるべきか迷った。しかし、彼女の真剣な眼差しは、真実を求めている。

俺は少し困ったような、しかしすぐに遠い過去を懐かしむような、穏やかな表情を浮かべると、ゆっくりと口を開いた。