ムニンはこれから、どうやって父親と向き合っていくつもりなのだろうか。
あいつは、何でも一人で背負い込もうとする傾向があるから一抹の不安を覚える。
そんな思いを抱えながら歩き続けていると、地下の奥深くにも関わらず、微弱な魔力の光が空間全体を淡く照らしている。
その光の中心、空間の中央に、顔を地面に向けて突っ伏しているブラッドさんの姿があった。
「せ、先生!」
その姿を見たカレンは、血の気が引いたように顔を青くし、すぐさまブラッドさんへと駆け寄った。つい数日前まで俺たちを圧倒していたあのブラッドさんが、どうしてこうも無残に倒れているのか?
何者かに致命的な攻撃を受けたのかと、俺の心臓は激しく波打った。
「や、やあ……カレン」
ブラッドさんは、わずかに顔だけを横に向けるのがやっとという状態で、カレンにか細い声を掛けた。近くで見ると、その頬は深くこけ生気が薄い。疲弊しているというより、何かを吸い取られたような、痛々しい衰弱に見えた。
「いったい何があったんですか?! 誰が先生をこんな目に遭わせたんですか!?」
「いや……ただ、取り上げただけだから」
「取り上げた……?」
その言葉の意味が理解できず、俺とロキが困惑して首を傾げたまさにその一瞬。
ザハラは、俺たちよりも早く頭上の空間の遥か上を、まっすぐに見上げていた。
そして、戦慄と長年の想いが入り混じったように体を細かく震わせながら、ほとんど息のような震える声でその名を口にした。
「……エーデル?」
その白竜の名を聞いた俺たちは、ザハラが目を向けている先へと、ゆっくりと恐る恐る視線を送った。
すると、そこには――巨大な白竜がいた。
神々しいほどに白い、光沢のある鱗を持つその巨体は、この地下空間の天井近くに、岩石のように静かに鎮座していた。翼は閉じられているにもかかわらず、その体躯から放たれる圧倒的な存在感と威圧感は呼吸を忘れさせるほどだ。
「……ザハラ」
天上に鎮座していたエーデルは、その巨大な首をゆっくりと下げながら、ザハラの名を呼んだ。カーマイン色の瞳は、まるで長い時を経て再会した我が子を見るように、優しく細められている。
「エーデル! こんなところにどうして?! なぜ……私たちに、この島の民に何も言わずに姿を消したのですか!」
ザハラの切実な問いかけに、エーデルは申し訳なさそうに頭を軽く伏せた。その動作だけで、地下空間に微かな風圧が生じる。
「ごめんなさい、ザハラ。あなたに真実を伝えなかったのは、余計な心配をかけたくなかったからです」
「……エーデル」
そのザハラとエーデルの緊迫したやり取りを、地面に横たわったまま聞いていたブラッドさんは、疲労の色を隠せないながらも、ゆっくりと体幹を起こして立ち上がった。そして、ザハラへと向き直る。
「ザハラ。エーデルのことはどうか許してやってくれ」
「……ブラッド様」
ブラッドさんは、一呼吸置いて続けた。
「小さかったお前が、立派な巫女として成長した姿を見れて、俺は嬉しかったぞ。それにエーデルがなぜ誰にも言わずこの地下へと身を隠したのか。それには、ちゃんとした理由があるんだ」
「理由?」
ザハラの疑問の声に、エーデルが大きく頷いたまさにその時。
「キュ、キュウウ……」
非常に小さく、か細い竜の鳴き声が辺りの静寂を破って響き渡った。
「……赤ちゃん?」
その鳴き声が聞こえた方角へと、俺たちは一斉に目線を送った。
エーデルの巨大な前肢の付け根。その影になった場所には、生まれたばかりと思しき、真っ白な鱗を持つ小さな白竜が一匹、穏やかに眠っていた。
その予期せぬ光景に、俺たちは驚きと困惑で目を瞬かせた。いったいどういうことなのか。その答えを求めるように、再びブラッドさんへと目を戻した。
あいつは、何でも一人で背負い込もうとする傾向があるから一抹の不安を覚える。
そんな思いを抱えながら歩き続けていると、地下の奥深くにも関わらず、微弱な魔力の光が空間全体を淡く照らしている。
その光の中心、空間の中央に、顔を地面に向けて突っ伏しているブラッドさんの姿があった。
「せ、先生!」
その姿を見たカレンは、血の気が引いたように顔を青くし、すぐさまブラッドさんへと駆け寄った。つい数日前まで俺たちを圧倒していたあのブラッドさんが、どうしてこうも無残に倒れているのか?
何者かに致命的な攻撃を受けたのかと、俺の心臓は激しく波打った。
「や、やあ……カレン」
ブラッドさんは、わずかに顔だけを横に向けるのがやっとという状態で、カレンにか細い声を掛けた。近くで見ると、その頬は深くこけ生気が薄い。疲弊しているというより、何かを吸い取られたような、痛々しい衰弱に見えた。
「いったい何があったんですか?! 誰が先生をこんな目に遭わせたんですか!?」
「いや……ただ、取り上げただけだから」
「取り上げた……?」
その言葉の意味が理解できず、俺とロキが困惑して首を傾げたまさにその一瞬。
ザハラは、俺たちよりも早く頭上の空間の遥か上を、まっすぐに見上げていた。
そして、戦慄と長年の想いが入り混じったように体を細かく震わせながら、ほとんど息のような震える声でその名を口にした。
「……エーデル?」
その白竜の名を聞いた俺たちは、ザハラが目を向けている先へと、ゆっくりと恐る恐る視線を送った。
すると、そこには――巨大な白竜がいた。
神々しいほどに白い、光沢のある鱗を持つその巨体は、この地下空間の天井近くに、岩石のように静かに鎮座していた。翼は閉じられているにもかかわらず、その体躯から放たれる圧倒的な存在感と威圧感は呼吸を忘れさせるほどだ。
「……ザハラ」
天上に鎮座していたエーデルは、その巨大な首をゆっくりと下げながら、ザハラの名を呼んだ。カーマイン色の瞳は、まるで長い時を経て再会した我が子を見るように、優しく細められている。
「エーデル! こんなところにどうして?! なぜ……私たちに、この島の民に何も言わずに姿を消したのですか!」
ザハラの切実な問いかけに、エーデルは申し訳なさそうに頭を軽く伏せた。その動作だけで、地下空間に微かな風圧が生じる。
「ごめんなさい、ザハラ。あなたに真実を伝えなかったのは、余計な心配をかけたくなかったからです」
「……エーデル」
そのザハラとエーデルの緊迫したやり取りを、地面に横たわったまま聞いていたブラッドさんは、疲労の色を隠せないながらも、ゆっくりと体幹を起こして立ち上がった。そして、ザハラへと向き直る。
「ザハラ。エーデルのことはどうか許してやってくれ」
「……ブラッド様」
ブラッドさんは、一呼吸置いて続けた。
「小さかったお前が、立派な巫女として成長した姿を見れて、俺は嬉しかったぞ。それにエーデルがなぜ誰にも言わずこの地下へと身を隠したのか。それには、ちゃんとした理由があるんだ」
「理由?」
ザハラの疑問の声に、エーデルが大きく頷いたまさにその時。
「キュ、キュウウ……」
非常に小さく、か細い竜の鳴き声が辺りの静寂を破って響き渡った。
「……赤ちゃん?」
その鳴き声が聞こえた方角へと、俺たちは一斉に目線を送った。
エーデルの巨大な前肢の付け根。その影になった場所には、生まれたばかりと思しき、真っ白な鱗を持つ小さな白竜が一匹、穏やかに眠っていた。
その予期せぬ光景に、俺たちは驚きと困惑で目を瞬かせた。いったいどういうことなのか。その答えを求めるように、再びブラッドさんへと目を戻した。


