レーツェルさんの口から、「ブラッドさんが出産中です」という話を聞いた俺たちは、混乱を隠せないまま、ザハラを伴って慌てて遺跡へと向かった。

「出産中って、いったいどういう意味だよ!?」

「ブラッドさんが……産むの? 何を!?」

俺やロキがそんな支離滅裂な疑問をぶつける間も、アルさんたちは説明を放棄したかのように、どんどん先へと進んでいく。俺たちは半ば引きずられるように、彼らに案内されるがまま遺跡の深い地下へと辿り着いた。

「遺跡の中に……こんなところがあったなんて」  

アルさんが開いた隠された通路の先は、誰も想像し得なかった巨大な空洞だった。どうやらザハラも知らなかったらしく、驚きに目を見開き、地下のあちこちへ熱心に目を配っている。

それにしても、この地下空間はとてつもなく広い。地面と天井が、思ったよりも遥かに離れている。

これくらいの広さがあれば、竜の一匹くらいなら簡単に悠々と飛び回れるんじゃないか?

「この先だ」  

アルさんは一切立ち止まらず、そう言うと迷いなく先へと歩いて行く。そんな彼の後ろを、俺たちは好奇心と不安を混ぜ合わせながら慌てて着いて行く。

「なあ、カレン。お前はザハラの家に残った方が良かったんじゃないのか?」  

隊列の後ろの方で、ロキが心配そうな顔でカレンに問いかけているのが聞こえる。

彼女はまだ回復したばかりで、顔色も優れない。しかし、カレンはその言葉にプイとそっぽを向いた。

「これくらい平気です。それに私は……先生に会いたいので」

「あ、会いたい……?!」  

カレンの意外なほど熱のこもった言葉に、ロキはなぜか顔中の筋肉をピクピクと動かし、頬を不自然に引きつらせた。

「あらあら、これはロキにとって最大のライバルが現れたんじゃないかしら?」  

テトが面白がってニヤニヤしながらそう言う。

「最大のライバル?」  

俺は意味が分からず、首を傾げた。

「そうだ、テト。ムニンはどうしたんだ? さっきから姿が見えないけど」

「ムニンなら一人で考えたい事があるって言ったきり、戻ってきていないわよ」

「そ、そっか」  

そこで俺は、ムニンとブラッドさんの会話を思い出す。ムニンの胸に去来しているものが何なのか、今はまだ尋ねるべきではない気がした。