「一ヶ月前の事件のことを、わたくしは詳しく知らないのです。しかしその事件がきっかけで、「共振の雫」に何かしらの影響が出ているのは確かなはずなのです」
「影響……」
「おそらく、サルワがソフィアに注いだ過大な魔力を、トトから与えられた雫だけでは持ちこたえられなかった。その結果、ソフィアは無意識下で持ちきれなかった分の魔力を、共振専用の第二の雫に横流ししたのかもしれないわね」
エクレールさんが提供した「二重魔力炉」という設定に対し、テトが冷静な仮説を立てた。
「ソフィアが?」
「本来、「共振」を発動させるための純粋な魔力を抱えたコアの中に、出所のわからない魔力が流れ込んでしまった。そして、その異質な魔力が「共振の魔力」と混ざり合うことができず、今も体内で反発しあっている――と、考えるのが自然でしょうね」
テトの見事な推理に、俺たちは小さな歓声を上げた。俺もロキも、その論理の明確さに納得した。
もちろんエクレールさんも「素晴らしいのです」と、テトに心からの拍手を贈った。
「しかし、本来であれば、その異物たる魔力は共振の魔力によって直ぐに打ち消されるはずなのですが、何かがそれを邪魔しているのですね」
「何かが……邪魔を?」
何らかの要因が、異質な魔力の残留を許してしまっている。
しかし、そんな原因となるものに心当たりなど……。
その瞬間、俺は決定的なものを思い出した。ソフィアの胸元に彫られた忌々しい魔法陣の存在だ。
そう言えば、ソフィアからあの魔法陣が完全に消滅したのかどうか、直接確認させてもらっていなかった。以前どうなったか尋ねた時も、曖昧な返事で終わっていた。
「まさか、その魔法陣が原因だったりするのか?」
俺は立ち上がり、藁にもすがる思いでカレンに尋ねた。
「なあ、カレン。ソフィアの胸元に彫られた魔法陣は綺麗に消えたんだよな?」
「っ!」
俺の質問を受けたカレンは、気まずさからか反射的に目を逸した。その微かな反応が、俺の胸に最悪の予感を突きつけた。
「……残っているんだな?」
「……はい」
カレンは顔を伏せ、か細い声でそう認めた。
その言葉を聞いた俺の中に、抑えきれない怒りの感情が噴出する。
「どうして……どうして話してくれなかったんだ!」
「お、落ち着けアレス! カレンはまだ病み上がりなんだからそんな怒鳴るな!」
怒りに任せて前に出ようとする俺を、ロキは両腕で強く押さえつけた。ロキの力に抗えず、俺は苦々しい顔で視線を床に投げた。
魔法陣が今も残っているせいで、コアの中で反発しあっている魔力が外部へ上手く逃げることができず、それが熱としてソフィアの体を蝕んでいるのだ。
「なんでソフィアは魔法陣の事を俺に隠したんだ?! もっと早くにこの事実を知る事ができていれば、ソフィアがあんなに苦しむことだってなかったかもしれないだろ!」
「……ソフィアが嫌がっていたからよ」
「えっ……」
カレンの絞り出すような一言が、俺の怒りを一瞬で凍らせた。ソフィアが嫌がっていた?
……なぜだ。
「影響……」
「おそらく、サルワがソフィアに注いだ過大な魔力を、トトから与えられた雫だけでは持ちこたえられなかった。その結果、ソフィアは無意識下で持ちきれなかった分の魔力を、共振専用の第二の雫に横流ししたのかもしれないわね」
エクレールさんが提供した「二重魔力炉」という設定に対し、テトが冷静な仮説を立てた。
「ソフィアが?」
「本来、「共振」を発動させるための純粋な魔力を抱えたコアの中に、出所のわからない魔力が流れ込んでしまった。そして、その異質な魔力が「共振の魔力」と混ざり合うことができず、今も体内で反発しあっている――と、考えるのが自然でしょうね」
テトの見事な推理に、俺たちは小さな歓声を上げた。俺もロキも、その論理の明確さに納得した。
もちろんエクレールさんも「素晴らしいのです」と、テトに心からの拍手を贈った。
「しかし、本来であれば、その異物たる魔力は共振の魔力によって直ぐに打ち消されるはずなのですが、何かがそれを邪魔しているのですね」
「何かが……邪魔を?」
何らかの要因が、異質な魔力の残留を許してしまっている。
しかし、そんな原因となるものに心当たりなど……。
その瞬間、俺は決定的なものを思い出した。ソフィアの胸元に彫られた忌々しい魔法陣の存在だ。
そう言えば、ソフィアからあの魔法陣が完全に消滅したのかどうか、直接確認させてもらっていなかった。以前どうなったか尋ねた時も、曖昧な返事で終わっていた。
「まさか、その魔法陣が原因だったりするのか?」
俺は立ち上がり、藁にもすがる思いでカレンに尋ねた。
「なあ、カレン。ソフィアの胸元に彫られた魔法陣は綺麗に消えたんだよな?」
「っ!」
俺の質問を受けたカレンは、気まずさからか反射的に目を逸した。その微かな反応が、俺の胸に最悪の予感を突きつけた。
「……残っているんだな?」
「……はい」
カレンは顔を伏せ、か細い声でそう認めた。
その言葉を聞いた俺の中に、抑えきれない怒りの感情が噴出する。
「どうして……どうして話してくれなかったんだ!」
「お、落ち着けアレス! カレンはまだ病み上がりなんだからそんな怒鳴るな!」
怒りに任せて前に出ようとする俺を、ロキは両腕で強く押さえつけた。ロキの力に抗えず、俺は苦々しい顔で視線を床に投げた。
魔法陣が今も残っているせいで、コアの中で反発しあっている魔力が外部へ上手く逃げることができず、それが熱としてソフィアの体を蝕んでいるのだ。
「なんでソフィアは魔法陣の事を俺に隠したんだ?! もっと早くにこの事実を知る事ができていれば、ソフィアがあんなに苦しむことだってなかったかもしれないだろ!」
「……ソフィアが嫌がっていたからよ」
「えっ……」
カレンの絞り出すような一言が、俺の怒りを一瞬で凍らせた。ソフィアが嫌がっていた?
……なぜだ。


