「これはカレンもサファイアの知らない事を知る絶好のチャンスなのですよ?」
エクレールさんの声には、抗いがたい魅惑の響きがあった。
「さ、サファイアの知らない事を知る……チャンス!」
なぜかその誘惑に、カレンはまるで宝物を見つけた子供のように、瞳を嬉しそうにきらきらと輝かせた。
「ではまず、わたくしからお話するのですよ。光の巫女と呼ばれているわたくしは、実は光国の第一王女なのです」
「えっ! てことはエクレールさん、お姫様?!」
俺の肩に乗っていたテトは、その身を小さく丸めたままぴくりとも動かなかった。その鋭い金の瞳だけがエクレールさんに向けられ、鼻を鳴らすように低い声が響く。「へぇ、王女ね……」と、まるで古臭い芝居を観ているかのような、皮肉めいた調子でつぶやいた。
「な、何か強烈に納得できる……」
だって立ち振舞いや言葉遣いは非の打ち所がないほど優雅で、まるで絵本から抜け出てきたお姫様そのものだ。風に揺れる金色の長髪は、陽光を浴びた絹糸のように輝き、その服装だってよく見れば生地の質感や装飾がこの村の誰よりも格調高い。
「はい、エクレール先生。質問良いですか?」
ロキは、先ほどまでの見惚れていた様子から一転、真剣な表情に戻っていた。
「何でしょうか? ロキさん」
「光国なんて言う国なんて聞いたことがないんだけどさ、それはどんな国なんですか?」
ロキの言う通り「光国」なんていう国は、俺たちの暮らす世界では歴史書を紐解いても聞いた事がない。村の図書館にある古びた地理書にも、その名前はないはずだ。
もしかしてその国は、ヨルンやブラッドさんが言っていた、この世界とは異なるあの世界にある国なのだろうか?
「そうですね。光国という国はもう滅んでいますので、この世界には存在すらないのです」
「えっ?!」
その言葉がテーブルに投げかけられた瞬間、部屋の空気が一気に重くなった。
「そのことについては、順を追って後ほどお話致します。でも光国はとても美しく、愛に満ちた国なのですよ」
そう言ってエクレールさんは、まるで遠い過去の幻を掴もうとするように、懐かしむ表情を浮かべた。彼女は胸の前で腕を組むと、静かに目を瞑る。
「光国は光の加護に守られた国であり、その中で私は光の巫女として、光の声を聞いていました」
するとその言葉と共に、彼女の体が柔らかな金色に光り輝いた。
その光は、まるで春の午後に差し込む温かい陽だまりのように、周囲を優しく包み込み、まばゆさの中にも安らぎと神聖さが満ちていた。俺たちはその神聖な光景に、呼吸を忘れて見惚れた。肩に乗っていたテトも、その光を浴びながら、警戒の色を薄め、静かにその温かな輝きを見つめていた。
「そしてサファイアは、氷国の出身であって、氷国の第三王女なのですよ」
「さ、サファイアもお姫様……」
カレンはまるで魔法をかけられたかのように、信じられないといった顔を浮かべる。彼女は驚きの眼差しでサファイアを見下ろした。
しかしサファイアは相変わらず、規則的な青い点滅を繰り返すだけで、何の反応も示さない。
「なるほどね。つまりこの魔剣サファイアも、訳ありのお姫様ってことなのね」
テトがふっと息を吐くように低い声でそう付け加えた。その声には、面白がっているような響きがあった。
このままだとサファイアに関する根幹に関わる様々な秘密を、本人の意思とは関係なく勝手に暴露されて行くことになるけど、本当にこれで良いのだろうか……。
そして俺はふと、さっきエクレールさんが言った言葉を思い出した。
「お姉ちゃんの腕の中に飛び込んで来ても良いのですよ」
でも、エクレールさんは滅んだ光国の王女で、サファイアは氷国の王女だ。国が異なれば、当然姉妹ではないはずだ。
じゃあ一体、何故エクレールさんはあんな親愛のこもったことを言ったのだろうか?
エクレールさんの声には、抗いがたい魅惑の響きがあった。
「さ、サファイアの知らない事を知る……チャンス!」
なぜかその誘惑に、カレンはまるで宝物を見つけた子供のように、瞳を嬉しそうにきらきらと輝かせた。
「ではまず、わたくしからお話するのですよ。光の巫女と呼ばれているわたくしは、実は光国の第一王女なのです」
「えっ! てことはエクレールさん、お姫様?!」
俺の肩に乗っていたテトは、その身を小さく丸めたままぴくりとも動かなかった。その鋭い金の瞳だけがエクレールさんに向けられ、鼻を鳴らすように低い声が響く。「へぇ、王女ね……」と、まるで古臭い芝居を観ているかのような、皮肉めいた調子でつぶやいた。
「な、何か強烈に納得できる……」
だって立ち振舞いや言葉遣いは非の打ち所がないほど優雅で、まるで絵本から抜け出てきたお姫様そのものだ。風に揺れる金色の長髪は、陽光を浴びた絹糸のように輝き、その服装だってよく見れば生地の質感や装飾がこの村の誰よりも格調高い。
「はい、エクレール先生。質問良いですか?」
ロキは、先ほどまでの見惚れていた様子から一転、真剣な表情に戻っていた。
「何でしょうか? ロキさん」
「光国なんて言う国なんて聞いたことがないんだけどさ、それはどんな国なんですか?」
ロキの言う通り「光国」なんていう国は、俺たちの暮らす世界では歴史書を紐解いても聞いた事がない。村の図書館にある古びた地理書にも、その名前はないはずだ。
もしかしてその国は、ヨルンやブラッドさんが言っていた、この世界とは異なるあの世界にある国なのだろうか?
「そうですね。光国という国はもう滅んでいますので、この世界には存在すらないのです」
「えっ?!」
その言葉がテーブルに投げかけられた瞬間、部屋の空気が一気に重くなった。
「そのことについては、順を追って後ほどお話致します。でも光国はとても美しく、愛に満ちた国なのですよ」
そう言ってエクレールさんは、まるで遠い過去の幻を掴もうとするように、懐かしむ表情を浮かべた。彼女は胸の前で腕を組むと、静かに目を瞑る。
「光国は光の加護に守られた国であり、その中で私は光の巫女として、光の声を聞いていました」
するとその言葉と共に、彼女の体が柔らかな金色に光り輝いた。
その光は、まるで春の午後に差し込む温かい陽だまりのように、周囲を優しく包み込み、まばゆさの中にも安らぎと神聖さが満ちていた。俺たちはその神聖な光景に、呼吸を忘れて見惚れた。肩に乗っていたテトも、その光を浴びながら、警戒の色を薄め、静かにその温かな輝きを見つめていた。
「そしてサファイアは、氷国の出身であって、氷国の第三王女なのですよ」
「さ、サファイアもお姫様……」
カレンはまるで魔法をかけられたかのように、信じられないといった顔を浮かべる。彼女は驚きの眼差しでサファイアを見下ろした。
しかしサファイアは相変わらず、規則的な青い点滅を繰り返すだけで、何の反応も示さない。
「なるほどね。つまりこの魔剣サファイアも、訳ありのお姫様ってことなのね」
テトがふっと息を吐くように低い声でそう付け加えた。その声には、面白がっているような響きがあった。
このままだとサファイアに関する根幹に関わる様々な秘密を、本人の意思とは関係なく勝手に暴露されて行くことになるけど、本当にこれで良いのだろうか……。
そして俺はふと、さっきエクレールさんが言った言葉を思い出した。
「お姉ちゃんの腕の中に飛び込んで来ても良いのですよ」
でも、エクレールさんは滅んだ光国の王女で、サファイアは氷国の王女だ。国が異なれば、当然姉妹ではないはずだ。
じゃあ一体、何故エクレールさんはあんな親愛のこもったことを言ったのだろうか?


