エクレールさんが放った浄化の光の奔流によって、自我を失いまるで病のように竜人族の肉体を蝕んでいた黒い粒子は、跡形もなく消滅した。

だけどあの黒い粒子に理性を奪われていた竜人族たちは、自らの手が仲間を傷つけ襲ったというおぞましい事実を、何一つとして覚えてはいなかった。

この結果を、彼らにとっての幸運と見なすべきか。あるいは、記憶の欠落という新たな悲劇と捉えるべきか。その判断は、あまりにも重く、誰にも下せないものだった。

あの未曽有の事件により、命を落とした竜人族は数十名に及ぶ。

ザハラは、守り救うことのできなかった同胞たちのために静かに涙を流し、そして失われたヨルンの存在を想い、止めどなく涙を流し続けた。

その深い悲しみがあったからこそ、生き残った竜人族たちは、誰も加害者となってしまった生存者を責めることはしなかった。ただひたすらに静寂の中で、亡くなった者たちへ手ずから花を手向けることしかできなかった。

俺たちは、そうして悲しみに沈む彼らの姿を、ただ遠くから見守ることしかできなかったのだ。

事件から、まるで濃い霧が晴れるのを待つかのように一週間が経過した。

「なあ、カレン。もう立って歩き回っても平気だって、本当に大丈夫なのかよ?」

「だからロキ、さっきから何度も言っているでしょう! 全く、しつこいんだから!」

竜人族の集落は、遅れて帰還した竜騎士たちの献身的な手助けもあり、徐々に元の活気と姿を取り戻し始めていた。俺たちもまた、負傷した身体を治すことに専念するため、変わらずザハラの家に身を寄せていた。

カレンはサファイアに認められ、その強大な魔力を一度に引き出した代償として、体内から魔力を激しく消耗し尽くし、まるで深い昏睡のように三日間にわたって眠り続けていたのだ。

二日前にようやく目を覚まし、彼女の容体を診たレーツェルさんからは「もう身体は大丈夫ですよ」と太鼓判を押されていた。しかし、カレンが倒れたと知ったロキの心配は尋常ではなく、彼女が目を覚ますまでの間、四六時中、その枕元から決して離れようとはしなかった。

その過剰な監視と心配は今も続いており、カレンが起き上がった後も、彼は彼女の側を片時も離れようとしない。さすがにカレンも、ロキの過保護とも言える振る舞いに、苛立ちが募っているようだった。

「全く、あれは仲が良いって言うのかしら、それとも悪いって言うのかしらね?」

俺の右肩に器用に降り立ったテトは、そう呟きながらため息にも似た小さな息を吐き出した。そんな彼女に、俺は努めて静かな声で尋ねた。

「テト。ソフィアは、まだ目を覚まさないのか?」

「……ええ、まだよ」

その重い言葉を聞いて、俺は静かに目を伏せ、顔に影を落とした。